季節は巡り、秋が来た。
というのは、小説のなかでの話。
『春季限定いちごタルト事件』、『夏季限定トロピカルパフェ事件』に続き、巡り巡って『秋季限定栗きんとん事件』。
高校2年の秋、小鳩君には彼女が、小山内さんにも彼氏ができた。
あの日の放課後、手紙で呼び出されて以来、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかった。
相手は、仲丸さん。ちょっと遊んでる風の外見とは似つかない気立てのいい子だ。表情豊かで、笑ったり拗ねたりする彼女と小鳩君は、週末ごとにデートする。
一方小山内さんは、新聞部の1年生、瓜野君から告白されつきあい始めた。瓜野君は、新聞部で一旗揚げよう、いや、自分の名を後世に残そうとまで考える野心家で自信家だ。
新聞部の部長、健吾をまたしても巻き込み、ストーリーは展開する。
ツキイチで起こる連続放火事件を瓜野君は追い始め、次の場所を予告するまでになる。傍観しているような小山内さん。小鳩君もなかなか絡んでこない。
けれど「トロピカルパフェ事件」で使われた車が燃やされ、小鳩君は、絡まざるを得なくなった。
まさか、違うよね。小山内さん。
ぼくたちが互恵関係を解消してから半年以上。その間に小山内さんが自分の『狼』を飼い慣らしきっていなければ、彼女は、やる。
しかし。
「やり口が露骨だ。小山内さんのやり方じゃない」
季節は巡り、秋から冬、春、そして夏へと移りゆく。10月から起こり続けている放火事件は、10回を数えた。
涼しい風が吹き始めた9月。瓜野君と新聞部員たち、そして3年生になった小鳩君と健吾は、それぞれ違う方向から放火犯を追い詰めようとしていた。
小鳩君は、「秋季限定栗きんとん」を食べながら、こう思う。
ぼくたちは煮られて潰されないと、ちゃんとアクが抜けないのだろう。何度も叩き潰されたはずなのに、どうやら裏ごしが足りなかったらしい。
いとしの栗きんとん。よくここまでおいしく仕上がるものだね。
上下巻というボリュームを感じさせないライトさも、また魅力です。
『夏季限定トロピカルパフェ事件』の〈小山内スイーツセレクション・夏〉に登場したお店も出てくるよ。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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