引き続き、ミステリを読んでいる。
『満願』で唸らされた、米澤穂信の連作長編だ。
語りは、大学を休学中の菅生芳光(すごうよしみつ)。彼が、ミステリ小説におけるいわゆる探偵役を担う。
学費が都合できなくなり伯父が営む古本屋「菅生書店」にバイトさせてもらいならが居候中の身だが、同人誌を探し長野からやって来たという北里可南子に、ある依頼をされる。
”リドルストーリー”と分類される「結末のない物語」5編(うちひとつは「菅生書店」で見つかった)を探して欲しいという。昨年50代で亡くなった父の小説を執拗なほど熱心に探している様子で、1作につき10万円の報酬を出すという入れ込み様だ。
芳光は大学復学の資金にしようと、伯父に内緒で引き受けるのだった。
序章と終章を合わせれば9章あるなかに、5つの物語のタイトルがある。
「奇跡の娘」「転生の地」「小碑伝来」「暗い隧道」「雪の花」
もちろん、本文ですべて読むことができる。
「奇跡の娘」は、こう始まる。
嘗て(かつて)欧州を旅行した折、ルーマニアのブラショフという街で、奇妙な話を聞いた。この世の塵埃(じんあい)から逃れ一切の苦悩を知らぬ、神に祝福された娘があるという。そう熱を込めて語った女は、公平に記しても少々精神の均衡を欠いているやに思われた。
どれも短編小説で、ラストが抜け落ちている。
そのラスト、リドルストーリーそれぞれの謎解きも、明かされていく。
芳光は、同人誌、小説雑誌のほか可南子の父、参吾のかつての友人、知人などを調べていくうち、参吾が未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったと知ることとなった。
当時4歳だった可南子は、事件のことを知っているのか。
なぜ、父親が残した小説にそこまでこだわるのか。
参吾は、どんな思惑でリドルストーリーを残したのか。
芳光自身の休学中の宙ぶらりんになった状態や心理なども交え、ますます謎を深めつつ小説は進んでいく。
さて。この物語は、うれしいことにリドルストーリーではない。
謎はすべて解き明かされる。ハッとさせられるのが心地よく、しかし悲しくもある大人のミステリだった。
表紙のローマ字は、フランス語「cinq fragments de la memoire 五つの記憶の欠片」でした。
結末のないミステリというカテゴリーがあることすら知りませんでしたが、代表的とされるのは、モフェットの『謎の物語』だとか。米澤穂信が魅力的だというこのミステリ、読んでみようかな。でも難しそう。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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