『I LOVE YOU』に引き続き、15年以上前に読んだアンソロジーを再読した。
『LOVERS』は、人気女性作家9人のラブストーリーを集めた小説集だ。
冒頭を飾る江國香織、川上弘美を、その頃夢中で読んでいたので手にしたのだろう。
ほかには、谷村志穂、安達千夏、島村洋子、下川香苗、倉本由布、横森理香、唯川恵が名を連ねている。
ここにも『I LOVE YOU』のときと同じく、まったく覚えていなかった小説に、とても魅かれた。
島村洋子の「七夕の春」だ。
私たちは友人だった。
友人というよりもっとうすい、目が会えば日に一度くらいは話す程度のクラスメイトだった。
中学を卒業して十五年、私たちは今も友人である。
特別恋愛感情を持つこともなく、卒業後、会うことも無かった。
だけど私たちはまだ友人を続けている。
ふだん、彼のことを思い出すことなんてほとんどない。
とはいえ悲しいときや寂しいときにはふと思い出すことがある。
小説は、そんなふうにとても静かに始まる。
「同窓会委員」に選ばれた〈私〉と〈J君〉は、同窓会名簿を1年に一度確認し交換し合う。郵便受けにDMくらいしか入らない〈私〉は、なんとなくそれを楽しみに待つようになった。
〈J君〉は、目立たぬ存在でありながら、みなに好かれている男子だった。
彼と目が合うと柔らかな光がそこに降りて来るような不思議な感じがした。
私はそれを誰かに確かめたわけではなかったけれど、多分、みんなそんな気がしたのだと思う。
15年、恋もしたし、失恋もしたし、見合いもした。仕事に夢中になったり、喪失感に苛まれたりもした。
その間〈J君〉とは、些細なメモ程度の近況しかやりとりしなかったが、大人になるまでの時間において微かな光のようなものを、そのやりとりに感じていた。
けれど、別れは唐突にやって来た。〈J君〉の訃報だ。
「息子は年に一回のあなたの手紙をそれはそれは楽しみにしておりました。アメリカに渡ってからは特にそれだけが楽しみだといってもいいくらいでした」
〈私〉は、呆然とし、そして考える。
どう考えても私たちは特別に親しい間柄ではなかった。
しかし私たちはこの十五年、一緒に生きてきた。
大人になった顔すら、お互いに知らないのに。
こういう関係って、確かにある。こういう関係というか、もう会うこともない誰かに抱く思い、みたいなものを、誰もが持っているはずだ。
会うこともなくなり、たがいに求めるものもなく、けれど温もりだけがいつまでも静かに残っているような。
かなり陽に焼けています。
半透明の丈夫な紙を、ブルーのストライプの表紙に重ねてありました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。