久しぶりに、湊かなえのミステリー。
『Nのために』は、デビュー4作目の初期の頃の作品だ。純愛ミステリーとも言われていて、2014年にドラマ化されている。
物語は、野口夫妻の死から始まる。
高層マンションに暮らす裕福な夫婦は、その室内で変死した。
そこに居合わせた20代の男女4人への事情聴取から、スタートする。
杉下希美( Nozomi sugishita)K大学文学部英文科4年生。野バラ荘 102号室に住む。愛媛県の青景島で生まれ育ち、大学進学とともに上京した。
成瀬慎司( shinji Naruse)T大学経済学部国際経済学科4年生。希美と同郷で、高校卒業まで青景島にいた。
安藤 望( Nozomi andoh)M商事営業部プロジェクト課勤務。野バラ荘2階に住む。長崎県の島育ち。
西崎真人( masato Nishizaki)M大学法学部法律学科4年生。野バラ荘 101号室に住む。自称作家の美男子。
死んだ野口貴弘、奈央子夫妻も含め、すべての登場人物に「N」の頭文字がつく。そのひとりひとりが、それぞれに思う「N」を守ろうと証言を作り上げていったのだった。
誰が誰を、真実を隠すほどに思っていたのか。
野口夫妻の死の真実は。
閉塞感。暴力。貧困。恐れ。
それぞれ抱え生きてきたNたちが、愛のために口を閉ざす。
小説を読み、もっとも印象に残ったのは、野口奈央子の生き方と、希美の生き方の違いだ。
夫に依存して生きていることを自覚している奈央子は、誰にも頼ることなく生きようとする希美に反発する。自分は正しく、希美は間違っている、あるいは自分の方が優位だ。そう自分に言い聞かせながらも、アイデンティティを否定されたような気持ちを抱えている。
一方、希美は、父とその愛人の行為により傷ついた過去にトラウマがあり、奈央子の生き方を肯定できずにいる。
どちらも正しくも間違ってもいないけれど、相容れないふたりの女が、ドラマを複雑にし、ミステリーをおもしろくしていた。
西崎がかいた小説「灼熱バード」を描いたような表紙絵。窓の向こうは、希美の故郷の海でしょうか。一瞬、ドレッサーのようにも見えました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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