ビルバオ郊外には、とても不思議な橋がある。
世界遺産に登録されているビスカヤ橋。1893年に開通した世界初の運搬橋だ。
何が不思議かというと、橋なのに、ケーブルで吊るしたゴンドラが対岸を行き来して人や車を運ぶ仕組みなのだ。人は、渡れる。45mの高さにエレベーターで上って渡る橋がある。船の行き来がさかんなビルバオ川では、船の通行を妨げないようにすることが第一優先だったため、当時の技術でできうる一番便利な形にしたのだろう。
ゴンドラは、人は40セントで乗れる。50円くらいだ。
乗ってみると、通勤や買い物に使われているのだとわかる。世界遺産のこの橋は、今も現役。生活の足として日々働いている。
「乗り物、たくさん乗ったねえ」
「メトロ、トラム、バス、ゴンドラ? パリでは水上バスのバトビュスも」
ゴンドラで、ビルバオ川を渡りながら話した。
この旅行ではいろいろな乗り物に乗ったからか、30年以上連れ添った夫婦でありながら、たがいに初めて知ることがあった。
夫は、進行方向を向いて座るのが好きだ。そしてわたしは、どちらを向いていても気にならない。ということだ。わたしの場合、気にならないというより、どちらに向かって走っているのか簡単には把握できないと言う方が正しい。自慢じゃないが、それが方向音痴というものなのである。
だから、ふと空いた座席に座り、どうしてわざわざ後ろ向きに座るのかと指摘されることが、この旅行では何度かあった。
方向音痴じゃない人は気になることもきっと多いのだろうと、わたしには想像することしかできない。夫は夫で、逆の立場からそう思うのかも知れない。
ビスカヤ橋のゴンドラには、座席はなかった。5分ほどで対岸についてしまう。
川の流れを突っ切るように進んでいくゴンドラに乗り、川風に吹かれて、どちらが上流でどちらが下流なのか考えたが、やはりよくわからなかった。
自分はただ立っているのに、川は流れ、ゴンドラは動いている。そう考えると宙に浮いているかのようで、何やら愉快な気分になったのだった。
メトロの駅から歩いて、遠目に見えたビスカヤ橋。手前には、ゆるやかな坂道をのぼるエスカレーターの歩道があって、おもしろかった。
近づくと写真には収まりません。上の部分が歩道になっています。
真ん中に車、両脇に人を乗せて、出発。
なかは、こんな感じです。
ゴンドラから見下ろした風景。カヌー、何艘も見えました。
対岸に着いて、見上げたビスカヤ橋。
バルでは、ビスカヤ橋付近で多いらしい鰯のピンチョスとビールで乾杯。
のんびりしてから、対岸にも通っているメトロに乗りました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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