久しぶりの森絵都の長編小説。
表紙絵やタイトルから、悪女が登場する話だろうとは踏んでいた。
だが、阪神淡路大震災がベースになっているとは知らずに手に取った。
主役は、ふたり。釜ヶ崎に居着いた日雇い労働者の礼司(25歳)と、ミステリアスな資産家の妻、結子(27歳)。
序章ともいえる冒頭で、15年後、阪神淡路大震災で行方不明となった礼司がかいた小説が見つかる。
タイトルは「この女」。結子の半生をかいたノンフィクションだ。
舞台は、震災直前の大阪釜ヶ崎と神戸。
「釜ヶ崎」がどんな場所か知らなかったが、大阪西成の簡易宿泊街で「ドヤ街」とも呼ばれ日雇い労働者や路上生活者が暮らす地域の通称だそうだ。
ある事情があって釜ヶ崎で日雇い労働をする礼司だが、ひょんなことからチェーンホテルの経営者、二谷に小説を依頼される。自分の妻、結子の半生をかいてほしいと。
取材は今は別居中の結子本人に、と丸投げされるが、その結子がくせ者だった。来る日も来る日もまるで違うホラ話を聞かせられる。その定まらないホラ話にも、しかし共通項はあった。
結子の語る少女時代の彼女は、例外なしに皆、寂しい。
孤独だけが支離滅裂な彼女の過去を束ねている。
結子はなぜ、過去を語ろうとしないのか。
二谷はなぜ、妻の過去を小説に起こしたいのか。
礼司はなぜ、釜ヶ崎で日雇い労働をしていたのか。
礼司と結子の、”恋”ともつかない関係は?
釜ヶ崎に押し寄せようとしていた、政治の波とは?
だんだんとミステリー色を濃くしながら、物語は進んでいく。読者にわかっていることは、彼らのあずかり知らぬこと、もうすぐ神戸に大きな地震が起こるということだけだ。
誰もがみな、不条理を抱えて生きている。
礼司も、結子も、釜ヶ崎で働く人たちも。
彼らはそんな不条理のなかで、救いの光となるものを、微かな光でもなんでもいいと、必死に、懸命に探していた。

読み始めてすぐに、表紙絵の女は二谷結子にしか見えなくなりました。
図書館で借りたこの本は、すでに文庫化されているそうです。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。