二階の自室に、新しくブラインドをかけた。
結婚して埼玉で暮らす娘から譲り受けた部屋だ。その際、カーテンは娘が持っていったので、以前どこかで使っていたカーテンを掛けた。幅が寸足らずで見るからにあり合わせだった。
ブラインドは、桐を選んだ。ナチュラルな明るい木の色だ。机横の卓上抽斗と同じような濃いブラウンにしようかと迷ったが、桐の木肌そのままの色にして部屋が明るくなった気がする。
こうして、少しずつ自分らしい部屋になっていくのがうれしい。結婚前、六畳一間のアパートでひとり暮しをしていたとき以来、じつに四十年ぶりに手に入れた自分の部屋だ。
ブラインドを掛けた窓の上には、「日々是好日」と大きくかかれた扁額を掛けてある。義母の形見だ。茶道の師範だった義母に、茶道を教えてもらえばよかったと今となって思うが、「日々是好日」の心「どんな日でも、かけがえのない一日である」という心得は、四十年義理ではあるが親子であったからこそ、教えてもらったような気がする。
机の横の壁には、わたしが詠んだ俳句を書にしてもらった額が掛けてある。三年前に始めた俳句で、初めて入選したこの句を、エッセイ教室の友人で長く書道を学び続けている悠里さんにかいていただいたものだ。
――闇に咲き闇をまとはぬ月見草
春、花をテーマにした書道のお仲間との展覧会に出展してもらい、とてもうれしかった。
机には、今年三月に開催した「手話まつり」の集合写真を飾ってある。NPO法人楽しく笑って人生を過ごす山梨手話の会の手話教室に通い始めて、もうすぐ十年になる。自習をサボってばかりで上達はしないが、一緒に笑い合う仲間の写真を見ているだけで楽しくなる。
その横に、お気に入りの目覚まし時計がある。焼き物の郷をひとり旅するのが好きで、益子に行った際アンティークショップで見つけた昭和レトロな時計だ。机には、同じ旅で見つけた益子焼の普段使いのマグカップ。毎朝、珈琲を淹れて楽しんでいる。
ここ北杜市に益子から越してきたという古物を扱う店で出会った、卓上抽斗も手の届くところにある。益子のアンティークショップで思いもよらず、知った店だ。旅先で地元の店を知るなどという不思議なご縁を思い出す。
使い勝手のいいペンやメモ帳などの筆記用具、ハンドクリームや目薬、ミュージアムショップなどで選んだりいただいたりした絵葉書などが入っている。
備え付けの本棚には、好きな小説や漫画、俳句の入門書やCD、十年前に死んだ愛犬が赤ちゃんだった頃の写真などが並んでいる。
机にはノートパソコン。椅子は、腰が痛くならない機能性重視のものを自分で組み立てた。ベッドは娘が置いていったものだが、無印良品でシンプルなチェックの蒲団カバーを選んで掛けてある。
歳を重ねた末に手に入れたマイルームは、どんどん自分で居心地よく変えていける、自分だけの大切な場所だ。
さて。先日、四人の友人たちとグループLINEでやりとりしたときのこと。
「ようやく、カーテン替えたよ。ブラインドにした」
先月、一人が穴のあいたカーテンを一念発起して買い替えた! と写真を送ってきた。
「うちもカーテン、寸足らずのあり合わせのまんまだー」
わたしは、そう返していた。新しくブラインドに替えられたのは、彼女のLINEがきっかけたっだのである。そんな経緯もあり、ブラインドで雰囲気が一新した部屋の使用前、使用後の写真を送った。
「この部屋のブラインドは、きっともう替えない。人生最後の買い物!」
還暦を過ぎた四人のなかで最近流行っているワード「人生最後の買い物」を添えてLINEした直後、一人から返事が来た。
「これ、ご主人の部屋?」
クエスチョンマークが、頭のなかいっぱいに飛ぶ。どうしてわたしが、夫の部屋の写真を送らなければならないのか。
「わたしの部屋だけど」
その後、「居心地の良さそうな部屋だね」とか、「日々是好日の映画観たよ、よかったよね」とか、LINEは続いたが、わたしは甚く傷ついていた。
彼女がピンクや花柄やパンダが好きな女性であること、わたしがピンク、花柄、パンダに興味のない女であることを差し引いたとしても、そうか、男の部屋の見えるのか、と。
そんなことがあってから、この部屋はわたしの内面をそのまま映しているのではないかと思い始めた。飾り立てるのは嫌いで、シンプルなものばかり。機能性は大事だとの信念があるから、大きな机と疲れない椅子を置いた。こまごまとしたものは見えないところに仕舞いたいし、ベッドカバーさえも主張のない薄いグレーのチェックだ。そして窓には、桐の木のブラインド。
女性らしい要素は、これっぽっちもない。女には使わない「女々しい」という言葉が大嫌いな、ああ! なんともわたしらしい部屋ではないか。
親友に一連の出来事を話し、写真を見せるとコロコロと笑った。
「さえそのものだわ! この部屋」
一緒に笑う。そうなのだ。この部屋の居心地が限りなくいいように、そんな自分が、実際わたしは嫌いじゃないのである。
☆今月のエッセイ教室に提出した作品です。

マイルームです。
自分の好きなものに囲まれて暮らすの身体にも心にも様々ないい影響を与えるらしいですね。
>わたしがピンク、花柄、パンダに興味のない女であること・・・・
さえさんからはとても女性らしい印象を受けるので↑の言葉は意外でした。
私もパンダにはあまり興味がないのですが、ピンクと花柄は大好きなのです。
でも、私の暮らしには思ったよりその二つは存在せず、たまに取り入れるのは洋服にかな?
キッチンのマット類は無地が多いのですが、細かな花柄(リバティーの様な)は好きなのです。
あくまでも部分的にです。
フリフリのカーテンやインテリアの部屋はあまり好みません。
ベッドにかけているキルティングカバーはグレーがかったピンクですが、とても地味な色合いです。
ブラインドはベージュです。
お義母さんから譲られた額装された日々是好日は素敵。
それに桐のブラインドがベストマッチです。
送ったお部屋の写真へのお友だちの反応がそれぞれ楽しいですね。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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