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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

小説「ある程度本気で」

“健康”というワードから、二人の人物が思い浮かぶ。

ひとりは、近所のチサトさん。わたしよりひとまわり上の七十五歳。いわゆる健康オタクで、雨の日も風の日もウォーキングを欠かさない。その後ろ姿は、ピシッとした姿勢からかまるで少年のように見える。薬膳に詳しく、日々実践している。年に一度七日間断食道場で修行するストイックさは、筋金入りだ。

 

もうひとりは、ヨガ教室のサヤカ先生。三十八歳。ヨガ、ピラティスなどの教室を自宅で開いていて、夏には湖でサップヨガを教えている。何度もインドのヨガツアーに参加し、本場でヨガを学び続ける向上心には頭が下がる。発酵マニアで、サウナが大好き。身体の外から、なかから、健やかな美を追究している。

 

二人とも、すごいと思う。何がすごいっていうと、その打ち込み方、本気度だ。迷いなく信念のまま突き進んでいく姿は、わたしにはまぶしく、美しくさえ映る。そして、こうも思う。わたしには到底できない、と。

 

チサトさんは、会うと挨拶代わりに薬膳の話をする。

「冬には冬の野菜とか、旬の食材を摂るのが大切なんだけど、でもね、咳に効くのは夏野菜なのよ」

「目が疲れているなら、酸っぱいものがおすすめ」

などなど、指南してくれる。断食の効能を解かれたこともあったが、興味がないとわかると、無理強いしたりはしない。食材の薬膳的効果なんかは、聞いてはなるほどと一度くらいは試してみるものの、すぐに忘れてしまう。

彼女に教わったなかで、今も習慣にして続けているのは、朝、一杯の白湯を飲むことくらいだ。

 

サヤカ先生のヨガ教室には、週一回、姿勢改善、体幹強化のピラティスに通っている。といっても、用事ができたといっては休み、腰が痛いといっては休み、月に三回行けばいい方だという緩い通い方。毎年、湖上でサップボードに乗ってヨガをするイベントにも誘われるのだが、水着を着るという時点で尻込みしてしまう。

「気持ちいいんですよ。湖面にきらめく太陽の光。さざめく波音。さわやかな風。木々の緑。波に揺られてヨガの呼吸をしていると、心も身体も開放されて、心地よいエネルギーが身体中に満ちてくるんです」

さすが、サヤカ先生。生命力できらきらしてる、と微笑んで傍観するのみだ。

 

さて。その二人に、最近口を揃えて言われたことがある。

チサトさんに、薬膳の食材がなかなか覚えられないと言うと、彼女はきょとんとした顔をした。

「さえさんは、だいじょうぶよ。毎朝、お白湯も飲んでるし、お野菜大好きだし。旬のものを食卓に並べてるし」

「おいしく食べたいだけですよ」

「それがいいのよ、夢中になりすぎないところっていうか、ほどほどに、ある程度本気っていう感覚が、続けていくにはちょうどいいのよ」

そしてサヤカ先生には、休みがちだし、いつまでたっても身体がかたいままだと愚痴ると、彼女もとんでもないと首を横に振った。

「十年前にここに来たときとは、さえさん、まったく別人ですよ。休み休みだけど、さえさんくらいのペースで十年続けてる人、ほかに三人くらいしかいないし」

「身体も楽になるし、楽しくて続けてるだけなんだけどね」

「その緩さがいいんですよ、ムリはしない、でも、ある程度本気ってところにこだわってる、そんな意思が感じられるんですよね。それがけっこう大事なんです」

驚いたことにどうやら二人とも、わたしの「ある程度本気」というスタンスを買ってくれているようだ。その道を究めんがばかりの信念を持つ二人に認められたようで、うれしかった。

 

そうそう。あともうひとり(?)健康について、口うるさいのが洗面所にいる。

「野菜は、かた茹でにしましょう」

「汁物で、食べ過ぎを防ぎましょう」

「薄味、腹八分目に慣れましょう」

あれこれ言うのは、タニタの体組成計だ。

ただ乗るだけでAIもどきが立ち上がり、わたしだと認識し、目標体重へのサポートのほか、体脂肪、基礎代謝、筋肉量などが健康な状態に近づくようアドバイスしてくれる。たまに「がんばっていますね」などと、おだてることも忘れない。

そのAIもどきには、好きな言葉がある。繰り返し、けっこう頻繁に表示する誰もが知るところの諺だ。

「塵も積もれば山となる」

ほどほどに、ムリはせず、ある程度本気で続けていけば、きっと“塵も積もる”ということだろう。

先日受けた人間ドックの昼食です。結果は、ひと月後に出るもの以外は、ほぼ問題なしでした。

☆今月、エッセイサークルに提出した作品です。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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