6年ほど前に読んだ『山女日記』の続編『残照の頂』。4編の山を登る女性達の物語が収められている。
「後立山連峰」
7月半ば。喫茶店店主の綾子(65歳)は、夫が好きだった五竜岳に登ろうと長野駅に降り立った。店に出入りしていた山岳経験者、麻美子(42歳)が同行するからと背中を押してくれたのだ。特別な思い入れがあい人選した山岳ガイドの岳人と共に、綾子の初登山は始まった。
「いつか、と言っているうちは、いつかなんて永遠に来ない。今、気付いても、もう手遅れ。そんな後悔ばかりが込み上げて……。一度でいいから会いたい。そうしたら、謝れるのに」
綾子に同行した麻美子にも、胸にあふれるままならない思いがあった。
「北アルプス表銀座」
土砂降りで始まった北アルプス登山。場違いにも思える音大生のユイとサキは、しかしすでにいくつかの山を登っていた。ユウが誘い、教え、連れて行ってくれたから。しかしここに、彼はいない。
『到着は、いつも夕暮れ……』
頭のてっぺんから声がどこまでも伸びていく。全開だ。
わたしに楽譜を託すなら、作詞もしておいてほしかった。だけど、私が作る詞だから、ユウにメッセージを送ることができる。
サキに思いを伝えることができる。
山を下りても、絆は変わらないと。それを私たちは愛と呼んでもいいじゃないか。
「残照」なんてタイトルをつけて、楽しかった大学時代を締めくくろうとするなら、あんたも来いよ。
「立山・剱岳」
夏樹は、女手ひとつで育ててくれた母と友達のように仲がよかった。ところが大学で山岳部に入ると言った途端、母が猛反対し、冷戦状態となる。どうにか許しを得たものの、母は娘が山岳ガイドを目指すことに納得していない。プレゼンだと意を決し、母とふたり剱岳登山をすることにした。
「もしかして、お父さんって、山で……」
風が声をかき消したのではない。それを言葉にできなかっただけだろう。
知らないうちに同じ人生を辿っていたことを、単純に喜んでいたわけではなさそうだ。無論、そう思わせてしまったのは、私のせいだということもわかっている。
大きく息を吸った。ゆっくりと吐く。
「武奈ヶ岳・安達太良山」
大学時代、山岳部だったエーコとイーちゃんは、今50代。世はコロナ禍を迎えていた。卒業以来、年賀状でしか連絡を取っていなかったが、京都で暮らすエーコは武奈ヶ岳登山をきっかけに、イーちゃんへ長い長い手紙をしたためる。
自然と口から、しんどい、という言葉が漏れました。
ついに、口にしてしまった。これまで、頭の中、ううん、全身がこの言葉で張り裂けそうになくらいいっぱいになっても、ぐっと歯を食いしばって耐えてきたのに。
登山だけでなく、人生においても。
そして福島のイーちゃんも、その返事をエーコに送る。安達太良山をひとり登ったこと、これまで生きてきた九十九折の人生を。
帯には、こうある。
ここは、再生の場所――。
続編は、登山初心者が簡単に登ることのできない山々が舞台となっている。そこには、登山経験のある女性達のドラマの数々が、描かれていた。
続編の表紙絵は、夕暮れっぽい暖かな色。
どれも名前を聞いたことはあれど、知らない山ばかりでした。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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