今年2025年4月に刊行された瀬尾まいこの新刊『ありか』。
「これまでの私の人生を全部込めたと言い切れる作品を描きました」
――瀬尾まいこ
テレビなどでも著者インタビューが放映された話題作だ。
主人公の美空は26歳のシングルマザー。工場でパートし、一人娘のひかりを育てている。保育園の年長組のひかりは甘えん坊でおしゃまで、ママが大好きな女の子だ。
これ以上に私を満たしてくれるものも、これ以上に私を動かしてくれるものもない。ひかりがいない人生なんて考えられない。私のすべてだと迷いなく言える。ひかりのためならなんだってできる⋯⋯。
と眠りに落ちる直前まで思っていたのだけれど、朝、たった十分早く起きることができない。
ふたりの慌ただしい生活は、春、夏、秋、晩秋、冬、冬の終わりと1年間続いていく。
ふたりにもっとも近しいのは、別れた夫の弟、颯斗。彼は年上の男性と同棲している会社員で、美空よりひとつ年下の25歳。毎週水曜、保育園にひかりを迎えに行き、夕飯を作ってくれる。
「週の真ん中に夕飯とお迎えから解放されるんだよ。お得だろ。ぼくだって週に一回ひかりに会えるしさ」
そんな颯斗の強引さに押し切られ、美空は甘えさせてもらっている。
そして美空には、母親がいる。シングルマザーで美空を育てた彼女は、しかし美空とは正反対だ。
「美空、ひとりで大きくなったみたいな気でいるんだね。誰に育ててもらったのかよく考えなよ」
51歳の今も、ことあるごとに育ててやったと恩を着せ、美空を支配しようとする。子育ては苦労でしかなく、自分に友達もいない、趣味もないのは美空のせいだと言い放つ。
美空は思う。子供がどうしても苦手な人もいる。実の子でも愛情を持てずに苦しんでいる人もいる。それは罪ではなく、本質的にそういう人もいるということなのだと。
淋しかった子供時代や母との関係に傷つき悩み、子育ての難しさに向き合いながらも、美空は決してひかりがいちばん大切だという気持ちは失わない。
余裕がないのと引っ込み思案な性格もあり、自分から誰かに頼ることができない美空に、手を差し伸べてくれる女性たちもいる。保育園が一緒の三池さん。職場の60代の宮崎さん。明るく優しい義理の母。
美空は、大切なものの”ありか”を見失わないよう、迷い苦しみ、そして答えを見つけ出していく。
生きていればうまくいかないことが日々めまぐるしく起こり、ネガティブな方に目が向きがちになる。そんな暮しのなかにも、きっと大切なものは隠れていて、見つけ出されるのを待っている。
自分のなかに眠っている微かな光が、うっすらと見えてくるような小説だった。

新刊を購入するのは、年に1回と決めています。今年は12月になったけど、素敵な本に巡り会えました。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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