『それでも旅に出るカフェ』に続き、近藤史恵の旅の連作短編集。
海外旅行の添乗員になったばかりの遥の、5つの物語だ。
「たまごの旅人」アイスランド七日間
遥は、旅行添乗員としての初めての旅に出た。行く先は、アイスランド。オーロラ鑑賞ツアーを含む現地では4泊5日の旅だ。
1日目、首都レイキャビクは土砂降りだったが、現地ガイドのダニエルは明るく言う。
「アイスランド人は『悪い天気なんてない』って言うんだ。いつだっていい天気だ。『悪いのはおまえの服装だ』ってね」
ところが、半数のツアー客がちゃんとした雨具を持参していなかった。途中、ひとりが体調を崩してしまい……。
「ドラゴンのみる夢」クロアチア、スロベニア九日間
「日本人の98%が行かない国」といわれるスロベニアは、街並みも大自然も美しい国だった。だが、父娘で参加した60代の父親が、女性蔑視発言を繰り返す問題人物だった。
「うちの娘は、三十五になっても甲斐性がなくて、彼氏もいないんですよ。仕事は派遣で、給料も安いし」
後ろを歩いていた二十代の女友達三人、木下さん村田さん坂本さんがあからさまに嫌な顔になる。
最終日の夜中、娘の結が、部屋から姿を消したと父親が連絡してくる。
「パリ症候群」パリとイル・ド・フランス七日間
「パリ症候群」とは、花の都パリの華やかなイメージと、現実のギャップ(文化や習慣の違い、街の不潔さなど)によるカルチャーショックで、日本人には適応できずに精神的なバランスを崩す人が多いという。
五十代後半の母親と二十代後半の息子は、母が昔過ごしたパリを穏やかに楽しんでいた様子だったが、四日目の自由行動の朝、母親がホテルの部屋に閉じこもってしまう。
「わたしの望みなんて、なんにも叶わないのね。せっかくきたパリは落書きだらけだし、犬の糞は落ちてるし、地下鉄はホームレスだらけだし……こなきゃよかったわ」
「北京の椅子」西安、北京六日間
ロストバゲッジから始まった旅には、モンスタークレーマーがいた。
「日本人は礼儀正しい」なんて言われることもあるけれど、いきなり人を怒鳴りつけるような人は他の国より多いと思う。怒鳴りつける相手はたいてい、目下だと判断した人だ。サービス業の従業員、若者、女性、外国人。もちろん、ツアーの添乗員もこのカテゴリに入る。
「沖縄のキツネ」
コロナ禍。仕事がなくなり、自宅待機を申し渡された遥。もともと添乗員の仕事に反対していた父親は、小言を繰り返す。遥は逃げ出すように、沖縄のコールセンターでバイトするべく旅立った。
タイトルの「たまごの旅人」には、こんな意味があった。
「旅行者って、そこに住んでいる人たちと、なにかが隔てられているでしょう。近くにいるけど、違う世界にいるみたい」
遥の旅は、きっとこれからも続く。

裏表紙には、こうかかれています。
未知の世界へ一歩踏み出す勇気が湧いてくる物語

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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