『家日和』に続き、奥田英朗のホームコメディ三部作の2作目。家庭に起こるさまざまな問題をテーマに置いた6編の短編集だ。
「甘い生活?」
会社員の淳一(32歳)は、新婚なのに家に帰りたくない。専業主婦の妻は、家事も料理も手抜きせずかいがいしく世話を焼いてくれるのだが、かえって落ち着かない。
会社帰りに麻雀しながら、同僚に打ち明けると、だんだん妻のアイデンティティが見えてきた。
彼女は、自分でイメージした人生をスタンプラリー的に歩いている。クリスマスにはロマンチックデート。バレンタインには手作りチョコ。旅行をすれば観光スポットで記念写真を撮る。専業主婦で、手料理をかかさないのもその一環か。
「ハズバンド」
どうやら夫は仕事ができないらしい。
妊娠して仕事を辞め専業主婦となっためぐみ(31歳)は、夫の会社のレクリエーションでその事実を察知してしまう。段取り音痴の夫は、この先仕事で花を咲かせることはないだろう。それでも毎日会社へ通うのだ。めぐみは、お弁当作りに力を入れることにする。
午前中にミスをしたらランチで気を取り直してもらい、午後に難事が待ち構えていたらランチで勇気をつけてもらう。
「絵里のエイプリル」
うちの両親は離婚したがっている。高3の絵里は、祖母からの電話で知ってしまう。弟には言えないし、一人で悩んでいても埒があかないと、学校でリサーチしていく。
佐々木さんは淡々と打ち明け話をした。父親が浮気相手と別の家庭を築いたので、もう会うことはないそうだ。
「しょうがないよ。親には親の人生があるんだし」
「夫とUFO」
会社員の夫の達生(42歳)が、UFOを見たと言い出した。交信しているのだと。
美奈子は、中2の娘と小5の息子と優しい夫と、ただ普通に暮らすことを大切にしたいだけだった。
ちゃんと気持ちをぶつけ合うと、家族はまとまるようだ。達生にもそうしたほうがいいのだろうか。解答はない。家族にはマニュアルがないのだ。
「里帰り」
東京で暮らす幸一(30歳)の目下の悩みは、盆休みの里帰りだ。名古屋に実家がある妻。北海道に帰省しなくてはならない自分。ふたりは結婚したばかりで、妻は大切に育てられたひとり娘だ。やっぱり、どっちにも帰るか。金も時間もかかる。気苦労も計り知れない。
「とにかく付き合うこと。墓参りも、買い物も、食事も、全部向こうの言いなりになること。一人になりたくても、女房の実家にそんな場所はないし、親戚連中と居間で一緒にいて、ニコニコしているしかない」
「妻とマラソン」
『家日和』でロハスにハマった妻が、今度はマラソンにハマる。
N木賞作家の康夫(46歳)が編集者に相談すると、夫が著名人になったがために周囲の主婦友が離れていったのではないかと指摘された。
「奥さん、自分も頑張れることが欲しいんじゃないですかねえ」
この小説のキーになっているのは、リサーチだ。家族という密室のなかの問題に対して、多くの意見が出てくるのがおもしろい。一般的なものから突飛なもの、的を得たもの、痛いところを突くものなどなど。それを聞き、みな自分が置かれている状況や自らの気持ちをクリアにしていくのである。
マンションが集合した都会の風景。『家日和』より、少し遠景になったのかな。
さっ、次は『我が家のヒミツ』だ。楽しみ~♩
我が家のヒミツ、図書館にリクエストしました。
明日受け取りにに行こうと思ったら休館日でした。
楽しみにしています。
本のご紹介ありがとうございました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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