青いけろじを見て、加賀恭一郎シリーズ『新参者』を再読することにした。
結果、緑を青と証言した年配の男は、この連作短編集ではないことが判明したが、何度読んでもいい小説だ。
マイベスト小説5に、入っている。
連作短編集。その形態をフルに活かした小説集だ。
舞台は、日本橋人形町の商店街。近くの小伝馬町のマンションの一室で独り暮らしの女性、三井峯子(45歳)が絞殺された。
警視庁捜査一課が捜査に乗り出すなか、日本橋署に移動したばかりの加賀恭一郎は、そこで店を営む人々に聞き込みに回っていた。
加賀が見たものは、ごく普通に暮らす人たちが持つ小さな隠しごとの数々だった。
「煎餅屋の娘」
保険の外交員の田倉は、峯子の部屋を殺害される2時間ほどまえに訪ねていた。しっかりしたアリバイがあるはずの彼は、しかしなぜか嘘をつく。
加賀は、煎餅屋「あまから」の娘、菜穂にサラリーマンの服装について講義をした。右から左に向かう人は上着を脱いでいて、逆は上着を着ている。季節は、蒸し暑さが極まる6月だ。
「どうしてだろ。偶然かな」
「こういうのを偶然とはいわないよ。何か理由があると考えるべきだ」
「料亭の小僧」
旦那が浮気相手に渡すと知りつつ、料亭「まつ矢」の見習い、修平は頼まれるままに人形焼きを買っていた。その人形焼きが死んだ峯子の部屋にあったらしい。
「瀬戸物屋の嫁」
瀬戸物屋「柳沢商店」の姑、鈴江と嫁の麻紀は、犬猿の仲。新しいキッチンバサミが死んだ峯子の部屋で見つかり、どうやら麻紀が絡んでいるらしいとわかる。
「時計屋の犬」
「寺田時計店」の店主、玄一は頑固一徹。高校卒業と同時に駆け落ちした娘を許せずにいた。加賀は、彼が毎日散歩させている犬に、彼と死んだ峯子の関係を聞き出すことにする。死の直前、峯子がかいたメールにこうあったのだ。
「いつもの広場で子犬の頭を撫でていたら、今日も小舟町の時計屋さんと会いました。おたがいマメですね、と笑い合いました」
「洋菓子屋の店員」
死の直前、峯子は洋菓子屋「クアトロ」にケーキを買いに来た。常連客で、店員の美雪は、優しい笑顔の女性だと常々思っていた。
この章では、峯子の小さな隠しごとが解き明かされていく。
「翻訳家の友」「清掃屋の社長」「民芸屋の客」そして、「日本橋の刑事」と続く。
それぞれに抱えている生活があり、事情があり、些細な、あるいは重大な秘密を持っていた。
「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」
加賀は、小さな謎も決して見過ごさない。必ず解き明かす。
2009年に刊行された連作短編集です。2013年に、ドラマ化されました。
そのときの感想は、こちら。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。