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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『現代生活独習ノート』

新宿駅ナカの本屋で衝動買いした津村記久子の文庫は、8つの小説が収められた短編集『現代生活独習ノート』。

 

もっとも風変わりだったのは、「現代生活手帖」だった。

近未来の話だろうか。毎年区が配る「現代生活手帖」には、便利なもののみが載っている。一人暮らしの〈私〉は誕生日をまえに自分へのプレゼントを考えている。

去年は、配送をロバにしてもらうサービスを選んだ。

ロバが「便利」かというと疑問はあるかもしれないけれども、少なくとも、荷物が来るのが遅くても怒らずにすんだり、ロバに仕事を頼みたいがために書類をまめに仕上げる動機を持つことができるという意味では「便利」だと思う。

定期的に留守中に気づかれない範囲で不要物を捨ててくれる捨て物ロボット。起き抜けに紅茶を淹れてくれるティーサーバー執事。〈私〉は迷いつつ、テーブルをこすって情報を起ち上げ、SNS的食料品交換サービスで冷凍うどんとちくわ天を交換してもらい夕飯を食べた。

 

そして、いちばん好きだったのは、「粗食インスタグラム」

きれいなご飯の写真を見ると辛くなる〈私〉は、自分の粗食をSNSにアップし始める。クラッカーと水だけの夕食。何を食べるかの判断に迫られ、1時間もスーパーをぐるぐる歩いたあげくの選択だった。会社では判断の連続。そのうえ自分が食べるものまで決めなくてはならない理不尽。ユーカリ一択のコアラがうらやましいと本気で思う。

人付き合いで嫌なのは、瑕疵がなくてなめらかな付き合いをしてくれる人への感謝はそれほど頭に上がらなくて、何かをやらかす人のことほど頭の中に滞留していることだと思う。私だけなんだろうか。食べ放題のソフトクリームと、行列に並ばせるスイーツの関係にも似てやしないだろうか。引っ掛かりがないことと、あること。

〈私〉がつらつらと考えるそんなこんなが、おもしろい。

クラッカー、ソフトクリーム、フォー、コロッケ、ぶっかけうどん。〈私〉に日常をはみ出ない範囲で起こる様々が、少しずつ食事に影響していく。

 

そのほか、入社希望の学生のSNSチェックに追われ、その情報量の果てしなさに疲れた女性は、休暇を取ってビデオレコーダーに撮りためた番組をぼんやりと観続ける「レコーダー定置網漁」

母親にされてきたキッチンでの強要を、小学生の娘にしてしまう母親「台所の停戦」

依存する側(A群)と依存される側(B群)。A群から逃げひっそり暮らす〈私〉は、B群の自助グループに顔を出すようになる「牢名主」

舞台はロンドン。完璧な女性フェリシティを面接する「フェリシティの面接」

上司の身勝手から余儀なくされた休日出勤に嫌気がさし、先輩が資料室に篭城した。そこでメダカを内緒で飼っている〈私〉は、社内の悪口ノートを置き忘れたことに気づく「メダカと猫と密室」

14歳、オタク系のキヨは、ゲームがきっかけで話すようになった同級生のスポーツ女子アサと架空の街の地図を作りあげていく「イン・ザ・シティ」。などなど。

津村記久子を久しぶりに読み、真顔で変なことをする人たちがおもしろいんだよなと思い出した。いや、これ変なのか? 普通なのかも、と共感すらしてしまうマジックがある。

ノートの上に立っている真顔な人たち。と、ロバ。短編のタイトルページにも絵があり、誰が主人公なのかわかります。ここにわたしも、いるのかな。

 

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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