村上春樹セレクトの十編のラブ・ストーリーからなる短編集『恋しくてTen Selected Love Stories』(中公文庫)を、読み終えた。
2つ目に紹介するのは、ペーター・シュタム『甘い夢を』甘味★★★★✯苦味✯
ララが、女の子の形をしたワインオープナーを買おうか迷うシーンから始まる。シモンと暮らし始めたばかりで、アパートのなかのあれこれを買い揃えている最中なのだ。21歳と24歳のカップルは、小さなものを買ったときでも相手の反応を気にしている。ララは自分からベッドに誘うこともしない。以下本文から。
ララと一緒になる前は、彼もまた両親と同居していた。そんなわけで、洗濯物は勝手にきれいになってくれないし、冷蔵庫の中身は自動的に補充されないのだという事実に、まだよく慣れていなかった。しかしそんな彼も、週末に二人で買い物に出かけ、今日は、明日は、あさってはどんな料理を作ろうかと語り合うことに喜びを見いだした。
「牛乳は必要かしら?」
「コーヒーがそろそろ切れかけていたよ」
「ゴミ袋がもうなかったわ」
そのようなやりとりは、予想しなかった気持ちの昂ぶりをもたらした。そしていっぱいになったショッピング・カートは、二人の前に広がる満たされた生活を象徴するものだった。ララと二人並んで、それを地下の駐車場まで押していくとき、シモンは自分が大人になり、独り立ちしたことに対して、深い誇りと、不思議な満足を感じるのだった。
物語は、その後一転して客観的な視点に変わる。二人とバスに乗り合わせた作家が、彼らからヒントを得て小説をかこうとする。
「何かを始めようとするときの至福に満ちた、しかし同時に僅かな不安をも感じる瞬間」に目を留めたらしい。
恋愛って、二人で買い物をするところから始まるのかも知れない。
昔、友人が言っていたのを思い出した。
「一緒に暮らすってのは、同じテレビを一緒に観ていくってことだよね」
若い頃の恋を、温かく思い出すストーリー。
『恋しくて』の表紙に使われた、竹久夢二の歌の絵本を持っています。
『宵待草』CD付きです。昔、父がプレゼントしてくれたものです。
『ハバネラの歌』1916年に描かれたものです。大正5年です。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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