津村記久子の小説を手にとったのは、5年ぶりで3冊目。
ほか2冊のレビューは、こちら
『とにかくうちに帰ります』→【些細なことの大きさを描く】
『この世にたやすい仕事はない』→【働くって生きること】
『浮遊霊ブラジル』は、7編の短編が収められた短編集。
表題作と『地獄』には死後の世界が描かれているし、どこにいても道をきかれる運命を持つ『運命』にも、三途の川へ行く道をきかれるシーンが置かれている。
『地獄』では、小説家の〈私〉は「物語消費しすぎ地獄」に落ち、1日3回殺されたり、2006年ワールドカップ決勝のジダンになって頭突きしたりする。かよちゃんは「おしゃべり下衆野郎地獄」でしゃべれない毎日を送っていた。そんな地獄で思う。
死にたい。死んでるけど。
『給水塔と亀』は、そんななかでも普通に文学的な作品。
都会で定年退職した男が、頼るものは何もない故郷に帰郷し、ひとりで暮らし始める転機を描いた川端康成文学賞受賞作だ。
いつまでも気楽でいたいと思っていたわけではない。けれど、いろいろなことの間が悪くて、私も積極的になれなかった。後悔はしている。人間が家族や子供を必要とするのは、義務がなければあまりに人生を長く平たく感じるからだ。その単純さにやがて耐えられなくなるからだ。
小説集ラストに置かれた表題作『浮遊霊ブラジル』は、初めての海外旅行を目前に死んだ男が浮遊霊となり、行きたかったアラン諸島を目指す。しかし電車もバスもすり抜けて乗れないことが判明し、気晴らしにと女湯を覗きにいくのだが。
読み終えると、「なんか生きてても死んでても、変わらないかも」と肩の力が抜けていく不思議さを持つ小説集だった。
うどんとスダチと葱、かまぼこと地獄のにぎやかな表紙絵。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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