『静子の日常』は、75歳のおばあちゃんが主人公。
夫亡き後、息子の愛一郎と嫁の薫子、孫で高校一年生のるかと4人で暮らしている。その家庭を描いた家族ドラマだとも言えるが、なにしろ静子が個性豊かでおもしろい。
たとえば、常に誰かに怒っている中年女性がいる。静子は、考える。
川原で騒ぐ子供たちや花泥棒などとは無関係の「怒らなければならない何か」が、あの人のなかにあるから怒るのだと。
私にはそれがわかる。なぜなら、私にも、かつてそれがあったから。
それが悪い猿みたいなものだったとしたら、私はその猿とどうにかうまく折り合ってきたし、あるときには、猿なんかいない、と自分に思わせることもできたけれど。
静子は、恋人のもとへ通う夫を黙認していた時期があったのだ。
さらに、考える。
猿と折り合っていた私が正しくて、あの怒鳴る女の人が正しくない、ということではないんだわ。そりゃあ、川原を追い出された子供たちはかわいそうだけれど。怒鳴る女の人は正直で、私は嘘吐きだった。そういうふうにも言えるかもしれない。
そして、さらに亡き夫を思い起こし、考える。
失礼しちゃうわ。死んでるなんて。
静子は、日々小さな事件のなかに身を投じ、やわらかに解決していく。
息子の浮気。フィットネスクラブの不穏な空気。孫の初恋。昔々の想い人にも会いに行く。
そんな静子の平穏とも不穏とも言える日常は、とても優しく、妙に可笑しく続いていく。
いじわるばあさんを描きたかったという井上荒野ならではのユーモアが効いた、ほんのちょっぴりの毒を含んだ絶妙なコメディである。
表紙絵は、静子が通うフィットネスクラブのプールのイメージかな。
☆シミルボンサイトで、井上荒野の連載をしています。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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