読書初心者&食いしん坊におススメしたい、連作短編集を見つけた。
文庫だが、ストーリーに登場するレシピがカラー写真入りで詳しく載せてあり、読み終えたあとにもまた作る楽しみ、食べる楽しみが待っている。
それも、ショートストーリー15編のなか25レシピすべて。豪華だ。
15編のサブタイトルには、主人公の名前が入っている。
たとえば「1回目のごはん 泣きたい夜はラム 立花協子のこんだて帖」といった具合に。
失恋したばかりの協子は、彼の背中を見送りながら考える。
日曜の夜は肉だろう。
ほかのいっさいに自分が目を向けないように考え続ける。
じんわりとやわらかい松坂牛を奮発するか、それとも黒豚でしゃぶしゃぶにするか……いや、もっと歯ごたえのあるものがいい。かぶりついて顎に力をこめて引きちぎって、もぐもぐと豪勢に噛めるようなものがいい。
そして、羊と決めネットで購入。土曜にはデパ地下でワインとチーズを調達する。自分だけのために。そしてラムステーキにかぶりつき、ハッとした。
康平と過ごした四年間は、考えてみればこのラム肉みたいなものだったと協子は思う。交わした言葉が、笑い合ったささやかなことが、言い合ったつまらないことが、相手のことを考えた時間が、ともに目にした光景が、まわし読みした小説の一節が、すべてゆっくりと消化され、わたしの栄養となりエネルギーになった。それは失われたのではなく、今もわたしの内にある。あり続ける。
協子は思う。このさみしさも、しっかり噛んで味わおうと。
妻のストライキに夫が作ったミートボールシチュー。ダイエット中の妹を心配し兄が作ったピザ。食同好会のみなで舌鼓を打つために作るタイ料理のフルコース。亡くなった妻の味を再現しようと夫が作った豚柳川。手作りにこだわる女性とジャンクフードが好きな恋人が合作した餃子鍋、などなど。
1回目のごはんには、2回目のごはんの主人公榎本景がちらりと登場する。2回目には3回目のというように登場人物がリレーしていくのも楽しい。
あるひとの物語で脇役だったひとにも、彼または彼女の物語がある。これは当然のことだが、同時になんだか途方もない気持ちになることでもある。
解説の井上荒野は、そうかいていた。
掌編とも言えるさわやかな短編15編と、思わずつばを飲み込んでしまう25ものレシピが詰まった贅沢極まりない1冊。
ダブルカバーになっていました。解説は、井上荒野。
レシピページは、こんな感じ。「春菊とほたてのスープ」「きのこマーボー」のページです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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