このインパクトは、なんだろう。圧倒された。
九州の小さな町を舞台にしたこの連作短編集には、全編に海の匂いがする。
表題作には、チョコレートグラミーという熱帯魚。
「カメルーンの青い魚」には、アフリカン・ランプアイというカメルーンで生まれたメダカ。
「波間に浮かぶイエロー」には、南の海に生息するハナヒゲウツボ。
「溺れるスイミー」には、むかし水族館で見た鰯の群れ。
その水に棲む生物たちになぞらえて、あるいは自分を置き換えて、理不尽という海のなかをもがきながら泳いでいく人たちを描いていた。
表題作は、こう始まる。
夏休みに入るちょっと前、近松晴子が孵化した。
いじめられっ子だった晴子が、いじめ男子を殴り倒したのだ。
中学生男子が主人公のこの短編は、息が詰まるような思いを抱えつつもいつか水槽から出ていくために大人へのステップを踏まざるを得ないふたりを描いている。
晴子は、この街は水槽だという。
「この水槽の向こうにはもっとたくさんの水槽があるんだよね。水槽どころか、池も川も、海だってある。いちいち怖がってたら、生きていけない。あたしたちはこの広い世界を泳がなきゃいけない」
片親の家庭、虐待、育児放棄、いじめ、偏見。
思春期の彼らには、抱えきれないほどの荷物が肩にかかる。
それでも、愛してくれる人がいる。それが、生きていくために胸に光る勇気になっている。そこがとても素敵だった。
大胆な仕掛けをR-18文学賞大賞の選考委員に絶賛された「カメルーンの青い魚」は、ぜひ読んで体感してほしい。
そして、仕掛けはそれだけじゃない。途中で手放す人はいないだろうが、ぜひラストまで味わっていただきたい小説集だ。
町田そのこのデビュー作です。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。