「春季限定いちごタルト事件」から1年ほどが経ち、小鳩君と小山内さんは、高校2年の夏休みを迎えた。
「いちごタルト事件」は、連作短編集の面持ちが強かったが、この「トロピカルパフェ事件」は、いくつかの序章を経て本題に入る長編といえるだろう。
夏休みの初日、小山内さんはわざわざ小鳩君の家まで、1枚の紙を渡しにやって来た。
街中のケーキ屋、カフェ、和菓子屋など、小山内さんが選んだスイーツのお店を記した地図。それがこの長編の本題と言える〈小山内スイーツセレクション・夏〉だ。
小鳩君は戸惑う。恋人同士でもないふたりが、どうしてスイーツ巡りを? そもそも自分は小山内さんほど甘いものが好きなわけじゃないのに。
小鳩君は、考える。
自分がよく知っている人間が思わぬ行動を取ったら、どうしたんだろうと不思議に思うだろう。思わぬ行動が重なれば、相手に何か心境の変化をもたらす重大事があったのかと心配する。そして、それがさらに続けば、自分はもしかして相手のことを理解し損ねていたのではないかと疑問を持ち始める。
ぼくが小山内さんに抱く不審の念は、その域に入りつつあった。
そして、もしそうではないとしたら、あるいは、と考えを進める。
「何か企んでるか、だ」
しかし、夏休みも中盤を過ぎた8月のある日、小山内さんは誘拐された。
その日は、小鳩君と三夜通り祭りに行き〈むらまつや〉のりんごあめを食べる約束をしていたというのに、迎えに行くと家にはいなかった。
「ごめんなさい。りんごあめを四つとカヌレを一つ買ってきてください。ごめんなさい」
ほどなくして届いた、小山内さんからのメール。これは、SOSなのか?
健吾に助けを要請し、小鳩君はまたも走るのだったが。
甘いもの好きな方のためにベスト10を、記しておこう。
1〈セシリア〉夏季限定トロピカルパフェ
2〈ティンカー・リンカー〉ピーチパイ
3〈むらまつや〉りんごあめ(←販売時期注意!)
4〈桜庵〉あいすくりいむ二種盛り合わせ(←黒胡麻&豆乳)
5〈道の駅キラパーク〉スペシャルサンデー
6〈ラ・フランス〉桃のミルフィーユ
7〈ベリーベリー三夜通り店〉フローズンすいかヨーグルト(←生クリームトッピング)
8〈ライトレイン〉黄桃パフェ
9〈あすか〉宇治金時(←つぶあんで注文)
10〈ジェフベック〉マンゴープリン
この絶妙なバランス、外し方、小山内さん的セレクションに、もう脱帽!
もちろん、ここだけじゃないよ。
全編のセリフのそこここに、米澤穂信の言葉選びのセンスがキラキラと飛び跳ねていた。
お次は『秋季限定栗きんとん事件』さらに『巴里マカロンの謎』へと続いていきます。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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