「移り香」を辞書で引くと、こう出てきた。
(うつりが)他のものから移った香り。残り香。
また「残り香」を引いてみた。
(のこりが)いなくなったあとに残っている、その人のほのかな匂い。
どちらも、美しい日本語だ。
『ダリ展』を観たあと、夫との夕食で鰹の刺身を食べた。
その鰹には、鮮やかなピンクの花を咲かせた紫蘇の実がのせてあった。それを指でそぐようにして鰹に散らし食べたのだが、次に手にとったのは生ビールのグラスで、口に近づけるとふわりと紫蘇の香りが鼻をくすぐり、ハッとした。一瞬だけだったがビールの味までもが変わったような不安定な感覚になる。その感覚は決して悪いものではなく、酔い始めの身体に心地よく染みて消えた。
「このまえも、あったなあ。こういうの」と、わたし。
「ああ、スダチね。言ってたねえ」と、夫。
家で夫が飲む焼酎のロックに、わたしがスダチを絞った。やはりその手で第三のビールを缶のままではあるが飲んだときに、スダチの香りがして違う感覚でビールを楽しめたのだ。それは悪くないどころか、いつもスダチを絞った手でビール飲もうかなと思えるほどに、いい感じだった。
「移り香って、言うんだよね」
以前読んだ推理小説を思い出していた。一晩共に過ごした男女の仲が「移り香」によって判るというものだった。「残り香」とかいてあったのかも知れない。
そんなロマンチックな、あるいはサスペンス色の濃いものではないが、食で「移り香」を味わう工夫をするのもまた、楽しそうだ。
鰹のお刺身です。紫蘇の実には濃いピンクの花が咲いていました。茗荷はごく細い千切りにしてあって、家でもこんなふうに切ってみようと思いました。
里芋の葛揚げ。とろみのある旨みの濃い出汁が、効いていました。
のどぐろの一夜干し。「のどぐろなのに、赤いんだね?」というと、夫がひっくり返して見せてくれました。確かに喉が黒い。
トリッパの唐揚げ。トリッパ(牛の第二胃で「はちのす」ともいう)を揚げるという発想がすごい。コリコリしてイケました。
透明感のあるガラスの箸置きに、心落ち着きました。六本木『からこま』で。
さえさん、こんにちは!
「移り香」に「残り香」、確かに美しい意味を持つ言葉ですね。
そういえば散歩の途中でラベンダーがたくさん咲いている場所があって、
嬉しくなって花の匂いを嗅いだり、手で触ったりして過してから帰宅すると、
家族から「いい香りがするね」と言われたのを思い出しました。
これも「移り香」なんですよね。
お料理どれも美味しそうです。
紫蘇の花もピンクで可愛くてキレイな彩りになってますね。
それからガラスの箸置きがすごく可愛いです。
イタリアのムラノガラスに似てますね。
papermoonさん
ラベンダー確かに移り香しますね。ミントや他のハーブも。我が家では、庭のミントが駐車場に広がっていて、歩くたびに香りがします。ハーブは移り香を楽しめるいい匂いですよね。
飛び込みで入ったお店だったんですが、お料理、美味しかったです。
ほんと。ムラノガラスに、似てますね。シンプルな焼き物の箸置きもいいけれど、込み入った柄のガラスもまた楽しいですね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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