マウスを買った。パソコンのマウスである。
「いい加減に、マウス使えば?」
夫には、これまで百回以上言われているが、使う気になれなかった。理由は、なくても済ませられるものをあえて使うのはシンプルじゃないように思えたから。
「ねずみ、ちょろちょろするなよ」
などと、マウスを軽視もしていた。
そして夫に言われるたびに反発もし、マウス嫌いに拍車がかかった。だが、とうとう折れて購入するに至った。ちょっと便利そうだなとは思っていたのだ。
「いやー、マウスって使ってみると便利だったよ、うん」
そうして、わたしの人生はまたひとつシンプルを脱ぎ捨て複雑になったのだ。
シンプルが好き、を裏返せば、複雑なことが苦手、ということになる。
キッチンはいつも雑然としているし、本棚からは本が溢れ出している。洋服もいつか着るかも知れないと仕舞ったまま忘れてしまう。
服じゃなくても、ここに入れたまま忘れる用(?)の抽斗があって、たまにひっくり返して探し物をすることになる。
英語のことわざで” Out of sight, out of mind.”「視界からいなくなると、心からもいなくなる」というのがある。どんなに親しかった人でも亡くなってしまったり、疎遠になった人は、月日が経てば経つほど忘れられていくという意味だそうだが、モノとなるとそれは顕著に表れる。
わたしには見えない場所の整理整頓など、到底できっこないし、見えなくすることで忘れられるという心理さえ見え隠れしている。
生きていくって、なんと果てしなく複雑な。
パソコンの周り、わたしの視界でちょろちょろするねずみを眺め、遥か遠い場所にあるシンプルライフに思いを馳せた。
何の変哲もないねずみくん、もといマウスです。
こちらも最近買った、なくてもいいけどあると便利なもの。
マイクロファイバー折りたたみ傘ケース。濡れた傘を鞄に入れられます。
折りたたみ傘も、ずいぶんと小さく軽くなりましたね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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