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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

7時1分

何年ぶりだろうか。

7時1分とすれ違った。

「まだ、乗ってたのか」

いや、もう10年も前のことだ。こちらはすでに乗り変えていて、まったく違う装いとなっている。向こうも別人だろうか。

 

7時1分とは、毎朝7時1分にすれ違っていた軽自動車のナンバーだ。

「・701」のナンバーが目についたのは、高校に通う末娘を駅に送る朝、必ず七時一分に駅に向かう道ですれ違うのがおもしろかったからで、娘と「7時1分」とニックネームをつけ呼んでいた。

「今日は、7時1分いないね」

「お休みかな」

娘と交わしたそんな会話を思い出した途端、走馬燈のようにいくつものシーンが浮かび上がる。

息が白く凍る冷えこんだ朝の空気や、娘が好んでしていたモノトーンのネクタイや、一緒に聴いたもう解散したバンドのアップテンポの歌や、毎朝淹れて水筒に持たせた熱いミルクティーの香りや、そんななにもかもが、その数字の並びを見た瞬間に押し寄せてきた。

たかが数字だが、701という並びを見て、そのなかにある数多くの記憶の粒子が呼び覚まされたのだ。それはまるで、数字の並びが記憶の扉を開き、今現在のわたしを招き入れたかのようだった。

招かれるままに扉をくぐり、過ぎ去った時計を10年前の早朝7時1分に合わせる。

「今日は、プリン攻めだよ」

娘がうれしそうに言ったのは、彼女の誕生日だった。

「ミッコのときは、オレンジーナ16本だったんだ」

そうだった。娘はよく、クラスメイトのミッコの話をした。

「タナカは、コアラのマーチタワー」

彼女たちのあいだでは、誕生日に好きなものを相手が困るほどたくさんプレゼントするのが流行っていて、娘の好物はプリンだ。

思い出した瞬間、バニラや卵の混ざった甘い匂いが鼻先をかすめたような気がする。コンビニのプリンをさも大切そうに食べていた制服姿の娘の顔まで浮かび、心の温度がかすかに上がる。

 

今のわたしの朝7時1分は、目覚まし時計を止めて、寝ぼけた顔でベッドから起き上がる時間だ。東京で働く娘は、どんなふうに過ごしているのだろう。

「プリンでも、送ってやるか」

そんなわたしの思いなど知るよしもなく、7時1分は、すでに視界から跡形もなく消えていた。

今乗っているのは、マツダのCX-5です。あの頃はフィットでした。

きのうの南アルプス連峰。

甲斐駒ケ岳。雪化粧したり解けたりを繰り返しています。

鳳凰三山。北杜市は零下の朝を迎えるようになりました。

これぞ八ヶ岳おろしを吹かせる雲。きのうの朝は強風で家が揺れていました。

でも昼には、雲もどこかへいってしまい風もすっかりやみました。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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