引き続き、原田マハを読んでいる。
4編から成る”旅”にまつわる短編集で、主人公はみな30代後半から40代の女性。人生につまずき、霧のなかで呆然としているような境遇だ。
「さいはての彼女」
六本木ヒルズに本社を置く大会社の社長、涼香は、何でも手に入ると思っていた。だが失恋した。オマケに10年タッグを組んできた「有能な秘書」が寿退社。
もう、沖縄でサマーヴァカンスでもして仕切り直すしかない。
そのはずが涼香は、なぜか女満別へ飛んでいた。
そこで、「サイハテ」という名のハーレーダビッドソンに乗るナギと出会った。耳の聞こえない23歳のスリムな、女の子という方が似合うような女性だ。
「私、ずっと走り続ける、って決めたの。やっと吹き始めた風を、もう止めたくないから」
その瞬間、しばらく凪いでいた海辺に、ふっと風が起こった。
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」
原田マハの短編ではお馴染みの「ハグとナガラ」シリーズ最初の物語。
ハグは、箱根の修善寺近くのホテルに、ひとりやって来た。旅の相棒ナガラは、母親の急病で急遽キャンセルとなったのだが、ひとりで行って感想を聞かせてほしいとの言葉に決行を決めたのだった。
大手広告代理店の課長で結婚する予定の彼もいたハグは、しかし恋人と仕事を一度になくしてしまう。そんなとき、ナガラからメールが来た。
「会社を辞めた」ってメールから、しばし時間が経過したよね。
もう、行けるかな。そろそろかな。
ね、行かへん? どこでもいい、いつでもいい。
一緒に行こう。旅に出よう。
人生を、もっと足掻(あが)こう。
「冬空のクレーン」
大手都市開発の企業で休む暇なく働いていた志保は、部下へのパワハラで長期休暇を取るハメになり、年末の雪の釧路へひとり飛んだ。
何気なく出かけたタンチョウヅルのサンクチュアリで、鶴の保護を仕事にしている男性、天羽(あもう)と出会う。彼は、もと同業者だった。
まいったなあ、追いつかないんだ、と思いましたよ。自分が夜通しがんばっても、もっときれいに、さらにかっこよく、と作ったのに、渡り鳥が飛ぶ夜明けの空にはどうしたってかなわない。
「風を止めないで」
1話目のナギの母親、道代が主人公。夫をバイク事故で亡くし8年が過ぎた。中学生だった娘も今や、ハーレーのカスタムビルダーとして働き、自分よりも稼いでいる。
けれどまだ、ナギがツーリングに出かけるとき、笑顔で「いってらっしゃい」と言えないと自覚するたびに辛くなるのだった。
そこへ突然、大手広告代理店の部長だという白髪交じりの男性が訪ねてきた。ナギをハーレーの広告に使いたいという。
「ねえ卓郎さん、ハーレー乗りって、みんなロマンチストなの?」
ダイニングテーブルの上に頬杖をついて、私はわざと不満そうな声を出した。
「夢の乗り物だの、風みたいな子だの、超えられない『線』なんかないだの、『一分一生』だの」
「なんだよ。ロマンチストでわりぃか。おれもあいつもナギちゃんも、それからあんたのだんなも、みんなそうだぜ」
ナギが勤める会社の社長が、いい味出していた。
自分の心のありようが、自分でもどうにもすることができないときがある。持て余す。もがき苦しむ。始末に負えない。たちが悪い。
そんな疼きのような痛みから、旅が解放してくれるのなら。
ずっと遠く、きっとさいはてまで走っていく予定。
以上、今日と明日のナギでした!
ナギのメールには、今日と明日しかない。きのうは、ない。
久々にブックオフに行き、1,500円売って、200円で買ってきた文庫。クーポンとポイント駆使しています。
『ハグとナガラ』は、短編集になっているんですね。
☆『地球の歩き方』山梨特派員ブログ、更新しました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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