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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『百花』

言葉の美しさに惹かれてなのか、イメージする映像に惹かれてなのか。

川村元気の小説を、『四月になれば彼女は』に続き、開いた。

 

先日、二十歳の頃から仲のいい友人たち3人と、オンラインおしゃべり会をした。

そこでも話が出たのが、家族との距離の取り方の違いだ。

わたしが生まれ育った家は、ほとんど干渉されることがなく放任とも言える環境で、それぞれとの距離は遠い方だと思う。母が幼い頃、親元を離れなくてはならず母親に育てられた経験がないということも一因なのかもしれないが、その距離感がわたしには心地いい。

今も母とは、離れていても元気でいればそれでいいとたがいに思っているし、子供たちともそのぐらいの距離で接している。

だから、結婚して夫の家族の”近さ”に戸惑ったが、夫が生まれ育った家族との”近さ”に同じように戸惑っているのを知り、なんとかやっていけるかもしれないと思ったことを覚えている。

3人の友人たちも、それぞれにパートナーとの距離感の違いに戸惑い、嘆き、ときには受け入れ、ときには受け入れられず、暮らしているようだ。

 

さて。小説は、シングルマザーとしてひとり息子、泉を育てた母、百合子の物語だ。

ひとり親。ひとり息子。

37歳、会社員で、結婚してもうすぐ子供が産まれる泉は、ひとりで帰省し68歳になった母とふたり年越しする。元旦が百合子の誕生日であり、毎年恒例らしい。

これは”近い”と思ってしまう。

思ってしまうが、ふたりきりの家族ならそういうものかとも考える。

百合子はアルツハイマーを患い、次第に記憶が失われていく。

泉は、仕事と身重の妻との日常に加え、母のもとへと通う日々となる。母と過ごす時間に、泉は思い出していく。母と過ごした子供時代のいくつもの記憶が、ふっとよみがえる。まるで、母が記憶を失っていく代わりに泉のなかにその分の記憶が差し出されたかのように。

 

読み進めると、最初に感じた距離の”近さ”は水面下に沈んだように見えなくなる。

ふたりには、どこかわたしの家族に似た”遠さ”があった。

それは、泉が中2になる春休み、母が失踪したことに起因していた。泉は、施設に入った母の空き家となった実家を片づけていて母の日記を見つける。

あの日、泉は母に捨てられた。

日記をめくりながら、記憶が蘇ってくる。忘れようとしていたこと。泉と百合子のあいだで消えたことになっていたあの一年のことを。

百合子は妻子ある男と恋をして、泉に何も言わず1年も消えていた。

ずっと、あの子とふたりで生きていくのだと思っていた。この孤島だけでいいと信じていた。
ひっそりと閉ざされた小さな港に、迷い込んできた白い船。
浅葉さんが船の上から私を呼んで、私は飛び乗ってしまった。その船がどこに行くのかは知らなかった。
でも、それでいいと思った。

いくら”遠く”とも、子供を置き去りにして失踪することなど、わたしにはできない。

けれど読み終えて、どんな親子にも、どんな夫婦にも、許せない出来事はあるのではないかと胸に落ちた。家族は、許せないことごとを抱え、受け入れたり受け入れられなかったりしながら、暮らしているのだ。

今年2022年秋、映画公開予定。楽しみです。諏訪の花火大会、いまだ行ったことがありませんが、映像にすると、綺麗だろうなあ。

ちなみに、夫の実家のある神戸市東灘区で百合子は男と暮らしていました。聞いたことのある地名が出てくるのでこちらも映像が浮かぶようでした。

COMMENT

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  1. hanamomo より:

    原田美枝子さん、いい女優さんですよね。
    今朝もプレミアムカフェを見ていたらイギリスの庭園の話で、そのナレーションをなさっておりました。

    >どんな親子にも、どんな夫婦にも、許せない出来事はあるのではないかと胸に落ちた。家族は、許せないことごとを抱え、受け入れたり受け入れられなかったりしながら、暮らしているのだ。
    外からは見えないこんなことがありながら家族って一緒に暮らしているのでしょうね。
    人間はけなげだな~と思います。

  2. さえ より:

    >hanamomoさん
    原田美枝子さん、凜としていて素敵な女優さんですよね。
    わたしも好きです。
    わたしも、息子とはもう何年も会っていなくて、どうしてこんなことになったのかわかりません。
    ダメ親だったのかなと落ち込んだり、ただの行き違いだと自分に言い聞かせたり。
    いつか気持ちが通じる日を、ただ待っています。

PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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