森見登美彦の『聖なる怠け者の冒険』(朝日文庫)を、読んだ。
社会人2年目にして独身寮で缶ビールを飲むのが唯一の趣味という怠け者、小和田君。彼は京都の街を舞台に活躍する正義の味方「ぽんぽこ仮面」なる人物に迫られていた。跡をついで二代目ぽんぽこ仮面になってくれと。
登場人物は、小和田君の先輩、恩田さんとその彼女、桃木さん。この二人は怠惰な休日を貪る小和田君を、常に街へ連れ出そうとしている。「ぽんぽこ仮面」を追う浦本探偵と助手で女子大生の玉川さん。世界でもっとも怠け者の探偵と方向音痴という才能に恵まれた助手の組み合わせだ。その他、小和田君の上司、スキンヘッドにサングラスの後藤所長。とある組織の首領でアルパカそっくりの五代目などなどが、祇園祭の宵山の土曜を駆け巡る。以下本文から。
「退屈の底を踏みしめて浮かぶ瀬もあれ夏休み!」
小和田君はマンゴーのフラペチーノを揚げ、ひとり乾杯した。この地上の楽園では、マンゴーのフラペチーノはいくらでもおかわり自由である。
「アア僕はもう、有意義なことは何もしないんだ」
空と海の間に足りないものは、もはやお嫁さんだけだった。
さて。
読者の方々はご存じのように、現実の小和田君は薄暗い蔵の中で眠っている。
小和田君は泣き疲れて眠ってしまった幼稚園児のように中途半端な姿勢で、茄子紺の座布団に埋もれている。ピッタリ閉じた瞼から見てとれるのは、「決して起きんぞ」という不退転の決意である。
物語が半分も進んでいないのに、座布団に埋もれて眠ってしまう人。そんな人物に「主人公」を名乗る資格があるのだろうか。そう仰る人もあるだろう。
しかし皆さん。今、我々に必要なのは思いやりの心である。
眠れ、小和田君。眠れ。
主人公だから頑張らなければいけないなんて、いったい誰が決めた?
何がおもしろいって、独特の世界観がたまらない。
そして小和田君初め登場人物たちがみな、自分の信念を貫き通すことにかけて迷いなく進んでいくところに、ずぶずぶと魅かれた。
小和田君は、苔むした地蔵のごとくぐうたらすることに全力を注いでいるし、ぽんぽこ仮面は、正義の味方たるためなら何事もいとわず、恩田さんと桃木さんは、週末を拡大すべく充実した土曜日を過ごすことに余念がない。方向は違えど、彼らの突き進んでいく信念に何ら変わりはないのだ。
「退屈だなあ。じつに退屈だ」
小和田君のうっとり声が、わたしの内なる怠け者を呼び覚まそうとしている。
眠れ。怠け者くん。眠れ。
炬燵でみかんを食べながら眠ってはいけないなんて、いったい誰が決めた?
『みんなで選ぶ第二回京都本大賞』受賞作だそうです。
文庫はリバーシブルカバーになっていて、裏はぽんぽこ仮面でした。
文庫本には、森見登美彦のサイン(?)が挟まっていました。
京都の駅弁「京都牛膳とおばんざい」です。
京都を舞台にした小説を読み、京都の駅弁を食べるへんてこ仮面なわたし(笑)
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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