ちょっと読書から離れていたので、ウォーミングアップに森絵都の6編から成る短編集を読んだ。短編集で、直木賞を受賞した作家である。
何度も読み返したその短編集『風に舞い上がるビニールシート』を含むコラムはこちら。
「出会いなおし」
イラストレーターの時子は、初めての個展でナリキヨさんと再会する。若かった頃に担当してもらった雑誌編集者だ。
歳を重ねるということは、同じ相手に、何回も出会いなおすということだ。会うたびに知らない顔を見せ、人は立体的になる。
「カブとセロリの塩昆布サラダ」
徹底した手作り料理を食卓に並べてきた50代の清美は、その日デパ地下で「カブとセロリの塩昆布サラダ」を買う。
「ママ」
嘘だった。あなたの過去はまがいものだった。私たちの結婚生活は、偽りの集積だった――。
〈私〉は、赤ん坊を連れ、家を飛び出した。
「むすびめ」
ずっと避けてきた小学校の同窓会に、しかし琴は出席した。どうしても確かめたいことと、伝えなくてはならない思いを胸に。
私も――。目の縁ぎりぎりに涙を押し留めながら、私は声にならない声を返した。私もずっとあの日に捕らわれ続けてきた。ことあるごとに自ら傷口をえぐり、そして、弱気になっていた。どうせまた私は失敗する。自分のせいでみんなに迷惑をかける。悪いほうへ悪いほうへと考えては怖気てしりごみし、心の弱さをぜんぶあの店頭のせいにして、結局のところ、臆病な自分を甘やかしつづけていた。
「テールライト」
どうか、どうか、どうか――。
過去も国も、人間であることさえも超えて、心から誰かのために祈る瞬間を描いたオムニバス。
「青空」
9歳で母親を失った息子。最愛の妻を失った自分。ふたりの生活は綻びだらけだった。だがあきらめかけたその日、時間が時間を呼び、その青空はふたりの目の前に広がったのだった。
わたしにも、捕らわれ続けてきた「あの日」がある。
いつか、出会いなおせるのだろうか。それとも、来世に持ち越すのだろうか。
それは自分次第なのだということは、わかってはいるけれど。
「人は何度でも出会いなおせる」という帯の文句に魅かれました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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