NHKBSプレミアムで放映された『愛と胃袋 直木賞作家が食べて書くヨーロッパの田舎』の番組中ドラマ書き下ろし原作小説だそうだ。
・角田光代「神様の庭」スペイン・バスク
・井上荒野「理由」イタリア・ピエモンテ
・森絵都「ブレノワール」フランス・ブルターニュ
・江國香織「アレンテージョ」ポルトガル・アレンテージョ
江國香織『やわらかなレタス』を読み、手にとった小説集である。
・角田光代「神様の庭」
バスク地方には、男ばかりが集い料理して飲み会話を楽しむクラブ(会員制サロン)がある。というのは紀行番組で観たことがあった。
もともと、家庭に居場所がなかった男どもが集まって、女房や生活の愚痴を言うための場所だった。
アイノアは、母が末期の癌を患っているという事実を、クラブに親戚一同を集め、食事を楽しみながら告白した父を理解できず、大学進学を機に家を出る。
27歳となった彼女は、難民キャンプなどで食事を作るようになっていた。そんな自分を待ってくれている大好きな恋人もいる。
父と自分は違う。父の料理と自分の料理は違う。そう思い、生きていた。
・井上荒野「理由」
ピエモンテの田舎で暮らす34歳のアリダには、同い年の娘がいる。
50歳の教師カルロと、生徒だった彼女が恋に落ちたのは、19歳のときだった。
アリダは、寝た切りになったカルロのために、今日もミネストローネを煮る。匂いの記憶が、彼を呼び覚ましてはくれないものかと。
鍋の中の野菜はもうすっかり柔らかく煮えている。
玉葱、セロリ、トマト、二種類のズッキーニ、パプリカにインゲン豆。どれも私たちの畑で獲れたもの。ほんの少しの塩だけで味をつける。大鍋いっぱいのミネストローネ。
複雑に混ざり合った野菜たちの匂いのなかで、彼を好きになった理由ならいくらでも言える、とアリダは思うのだ。
・森絵都「ブレノワール」
ジャンは、故郷ブルターニュのケルトの血を引くブルトン人の信心深さに辟易していた。それゆえ仲たがいし、6年も会っていなかった母が死んだ。
ブルターニュ発祥のクレープには二つの種類がある。黒小麦粉から作る茶褐色のガレットと、小麦粉から作る乳白色のクレープ。母は前者を「しょっぱいクレープ」と呼んでブルターニュの王道と見なし、後者を「甘いクレープ」と呼んで邪道扱いしていた。
パリで一流シェフを目指すジャンに、死に際でさえもけんもほろろだった。
「甘いクレープなんて紛いものだよ。ブルトン人があんなものを客に出すなんて情けない」
ただひと言、死んでなおジャンを認めるときがきたら「自分は五枚の花びらを持つ白い花となり、お前にそれを知らせる」と言い残して。
・江國香織「アレンテージョ」
ルイシュは、ゲイの恋人のマヌエルとアレンテージョを訪れた。リスボンから車で走る田園地帯。息抜きの旅だ。
たがいに愛し合っているのはわかっているのに、ルイシュは、すれ違う気持ちを消化しきれずにいた。マヌエルは、出会った人すべてに自分の魅力を分け与えることを惜しまない。笑顔も友情も、肉体さえも。
ルイシュは、自らを嘲笑する。
狭量で、偏屈で、陰気で嫉妬深いルイシュ。
それでも、マヌエルといると思うのだ。
おなじものを食べるというには意味のあることだ。どんなに身体を重ねても別の人格であることは変えられない二人の人間が、日々、それでもおなじものを身体に収めるということは
どの小説も、個性的だった。そして、食べることが、生きることを意味しているのだと静かに訴えていた。
不思議な表紙。〈写真:源孝志・大野晋三〉とありました。それぞれのストーリーにもモノクロの写真が入っていたので、どちらの写真かわかりません。
ブルターニュは、フランスの西。ピエモンテも、イタリアの西に位置するんですね。
2010年に放送されたもので、検索したけれど観られそうにありませんでした。
この番組見たいですね~。
私も検索してみましたが無理なようですね。
井上荒野さんのミネストローネが美味しそう。
こんな風に豆を煮て食べたいといつも思っているのに、母と一緒に暮らしていると、甘く煮てしまいます。
それぞれの野菜からにじみ出てくる美味しいスープにはほんのひとつまみの塩さえあればいいのですね。
美味しいスープを作りたくなりました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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