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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『ホテル・ピーベリー』

久しぶりに手に取った近藤史恵の長編ミステリ。

ハワイ島の田舎町の古びたホテル・ピーベリーを舞台に、初対面の男女5人と宿主夫婦2人で繰り広げられるサスペンスだ。

客たちは、それぞれ3ヶ月の滞在ビザを持ち、ここにやって来た。

ピーベリーは「リピートお断り」の二度と訪れることができないホテルなのだった。

 

ハワイに到着したばかりの主人公で一人称の語りは、26歳の木崎淳平

あるトラブルで小学校教師を辞め、現在無職。髪を金髪に染め、昔の自分を忘れようとしている。

 

同じ飛行機で到着した同年代の美形女子桑島七生(くわしまななお)は、結婚前、最後のひとり旅だという。

「なんか、簡単になびくように見えるんでしょうね。わたし、なんか適当に口説かれること、多いんです」

坊主頭のサーファーっぽい30代、佐奇森真(さきもりまこと)はすでに2ヶ月滞在中。軽いノリで七生を初対面で「ナナちゃん」と呼ぶが、思慮深い一面も見せる。

「もし、彼女と結婚するとして、その前に三ヶ月旅行したいと聞いたら許すか?」

平均より少しいい男といった風情の蒲生祐司(がもうゆうじ)は、40代。客のなかでも古参で2ヶ月半滞在している。

「ときどきいるよ。やっぱりハワイは南国のイメージが強いんだろうな。薄着でやってきて風邪引く奴」

木崎とやはり同年代の白く透き通った肌をした青柳は、太陽アレルギーらしい。夜のプールで見かけることが多いが、夜行性なのは、星を撮っているからだという。彼は、木崎に謎の言葉を遺す。

「楽しみにしてろよ。きっとおもしろいものが見られる」

無愛想な宿主、瀬尾洋介。すべての客に母親のように接する瀬尾和美。ふたりは「ホテル・ピーベリー」とオープンしたばかりのカフェ「WAMI」を営む40代の夫婦だ。

「ピーベリーは莢の中の部屋にひとつしか入ってないの。だから希少なの」

つまり、普通なら二粒採れるところが、一粒しか採れないということになる。高いはずだ。

彼女は、ぼくの手からピーベリーを取り上げた。

「なんか可愛そうよね。ほかのコーヒーはふたつでひとつなのに、この子はひとりぼっち」

ふいに漂う空気が濃密になった気がした。

彼女の皮膚から、なんともいえない女の匂いを感じる。

淳平は、やがて和美と関係を持つようになった。

職場の小学校で負った傷を、癒やしくれる何かを探していた。

 

淳平と七生が最在し初めて2週間後、事件が起こった。

蒲生がプールで溺死しているのが見つかったのだ。

心理サスペンスというのとは違うが、淳平の心理描写を深く深く描いているところにぐいぐい引き込まれる小説だった。

このホテルの客はみんな、嘘をついている

淋し気ななかに何か温もりも感じるプールの揺らぎを描いた美しい表紙絵です。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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