『中野のお父さん』の続編である。
「日常の謎も文豪の謎もコタツ探偵が名推理!」と帯に謳われている。
出版社に勤める美希には、定年退職したもと国語教師の父がいる。コタツ探偵とは、もちろんその、中野に住むお父さんのことだ。
『縦か横か』
美希の話を掘り炬燵にあたりつつ聞き、当て逃げの犯人を言い当てる。
『ガスコン兵はどこから来たか』
太宰治の『春の盗賊』に出てくる《ガスコン兵》という謎の言葉の起源を探る。
『パスは通ったのか』
作家先生が古本屋で買ったブルーレイ。だが付いているはずの特典映像に、どうしてもたどり着けない。
『キュウリは冷静だったか』
病床の夫がつぶやいた。「洋さんは、キュウリだな」だが、回復してもその意味を語ろうとしない。
さて、炬燵の名探偵は、何らかの答えを導き出せるだろうか。
――今回は、難問だろう。
と、ほくそ笑んでしまった。ところが、父は嬉しそうだ。
「ふむふむ」
しゃくにさわる。
『『100万回生きたねこ』は絶望の書か』
編集者が集う飲み会で、好きな絵本の話になった。美希が『100万回生きたねこ』を出すと、出会ったばかりの若手編集者が言う。「僕は、あれは……絶望の書だと思うな」嫌な奴、と美希は思うが、コタツ探偵は語る。
「奇跡の巡り合いに、百万一回はいらない。どの巡り合いもそうなんだ。……そうして巡り合った、あれやこれやの欠点を持った二人が、相手の嫌なところや許せないところに怒り、爪を立て合いながら、ゆっくりと育てて行く。……愛とは、そういうものじゃないか」
ほかに、『水源地はどこか』『火鉢は飛び越えられたのか』『菊池寛はアメリカなのか』、8編の連作短編集になっている。
シリーズ2作目は、お父さんの和書好きがさらに光るほか、穏やかな人となりを感じるやわらかな目線が際立っていた。
愛娘、美希への深い愛情も描かれている。お父さんが倒れたとの知らせに、美希は子どもの頃のことを思い出す。
美希が小学生の頃、父が日常の出来事を、漫画に描いてくれたからだ。その中で、美希は《こねこ》のキャラクターで登場する。
(中略)
チョコレートを食べた父に《どうでしたか、おやじ》といい、《おあじ》の間違いだったという猫。縄跳び大会で二百二十二回も飛んだ猫。風の強い日、庭に《たこまち》と書かれた紙の切れ端が舞い込んできたのを《あきたこまち》の一部だと推理した猫。
掛け値のない愛を描かれた小説は、読んでいて優しい気持ちになる。
シリーズ2作目はやわらかなピンクの表紙です。
1作目は、若草色。
裏には、子どもの頃の美希とまだ若いお父さんが、益田ミリの優しい絵で描かれています。『100万回生きたねこ』で、嫌な奴と思った手塚くんとの進展も楽しみです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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