読書はまだリハビリ中で、のんびりモードで読んでいる。
北村薫『紙魚家崩壊~九つの謎』は、9編から成る短編集。ミステリと言い切ってしまうには疑問が残る不思議な物語集だ。
9編のなかには、同じ人物が登場するストーリーもある。
表題作「紙魚家崩壊」と「死と密室」では、”両手が恋をしている女”(助手)と探偵がホームズ役だ。
1+1=1
1÷2=0
書籍収集家の紙魚夫妻。その妻が遺したダイイングメッセージだ。それは、夫に殺された妻が遺した、夫婦というものの悲しさを語る真実だった。
ほのぼの系の「サイコロ、コロコロ」「おにぎり、ぎりぎり」には、出版社でキノコのハンドブックを担当している新人、千春さんが登場する。
「溶けていく」は、会社とアパートを往復することに疲れた社会人になったばかりの美咲の物語。真面目な彼女は、会社の人たちを模した漫画の切り抜きでひとり遊びするうちに現実との境目がわからなくなっていく。
「俺の席」は、友人宅で麻雀をし、朝帰りをした〈俺〉は、いつもの私鉄沿線のいつもは乗らない始発駅から電車に乗った。始発から乗れば座れるのだと、当たり前のことに感心していると。
座ったとたん、何か、肌を刺すような妙なものを感じた。
それが周囲の視線だと気づいた頃、ひとりの男が心の声を絞り出すように、言った。
「……俺の席だよ」
指定席というわけでもないのに、みなが男の味方だった。だが〈俺〉は、席を立たなかった。
《これから毎日、俺があの時間に、あそこに現れたらどうなるのか》。それこそが日常ということになるのだろう。その筈だ。我々は、そうやって日を送っているのだ。
だが、〈俺〉が家に帰ると、そこには。
ほか、ファンタジックな装いの「白い朝」「蝶」。
かちかち山をミステリ仕立てにした「新釈おとぎばなし」。
人の心の在る場所は、ほんとうは現実世界だけじゃないのかもしれないと、読み終えてしばしぼんやり考えた。
図書館で借りました。北村薫の短編集は、リハビリにぴったりでした。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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