『海をあげる』の上間陽子がまとめた、ルポルタージュ。
松山ケンイチ主演の舞台『hana-1970、コザが燃えた日-』を知り、観に行きたかったのだが感染状況を考えて断念した。
知りたいこと、目を背けてはならないことがそこにあったはずだ。
その代わりにはならないだろうけれど、ちょうど同時期に手に取ったこの本を今、読むことにした。
著者は、故郷沖縄で、暴力被害を受けた未成年者の相談を請け負うスーパーバイザーをしている。
タイトルから、勝手に思い込んでいた。
米軍基地にいるアメリカ兵による暴力に関するルポルタージュだと。
けれど、まったく違っていた。
女性たちに暴力を振るっているのは、親や夫や恋人だった。
兄からの暴力で家に居場所がなかった優歌は、結婚してからも夫のDVに苦しむ。
家出して男のところ行っても、にぃにぃに見つけられて、くるされて(ひどく殴られること)、それが怖くて、また逃げて……いつも逃げる、いつもだよ。
翼の夫は、自分の暴力を正当化し「全部おまえが悪い」という。離婚するのなら親権は自分が取ると主張する。子供時代ネグレストに遭っていた翼は、子供に両親がいる普通の家庭で育ってほしくてエスカレートする暴力に耐えていた。
力で、なんていうの、ねじ伏せようとしてるから、あっちは。もう愛はなかったですね。
妊娠中の夫の暴力が原因で早産し、脳性麻痺の理央を産んだ鈴乃は、理央の世話に心を砕きながらも、看護師の資格を取る。
鈴乃は夕方になると、カバンにドレスをつめこんで学校(定時制)に行き、夜、学校が終わったらそのまま、キャバクラに出勤するようになる。
中2のときに集団レイプされた亜矢は、母親と相談し、警察に届け出ないことを決めた。それを忘れるため、複数の男たちと性交渉を繰り返していく。
そのとき味わった恐怖を無化し、奪われたコントロール感覚を取り戻すために、もう一度同じような場面を再現して、今度こそその恐怖に打ち勝とうとして行われる。
15歳で妊娠した京香は、どうしたらいいのかと医者に相談すると、「知らんよ!」と突き放された。
京香は子どもの父親である男性に、無事赤ちゃんが産まれたと書いたメールを送っている。だが、その男性からは、なんの返事もなかった。
15歳から恋人の和樹に援助交際を強いられ、金をたかられていた春菜は、大人になってから好きになった人に自分の過去を話すことができない。
和樹は四年間、春菜に客とセックスをさせて、そのお金で生活し続けてきた。その和樹との生活をとことん嫌だと思ったときに、春菜は和樹を捨てた。だが、その春菜をだれも受け入れることがないならば、春菜のそばにいることができるのは、すべてを知っている和樹ひとりしかいない。
すべては、2012年以降に著者が調査した事実を元にかかれている。
これは日本で、ほんの数年前に起こったことなのだ。
上間陽子は、繰り返しかいている。
彼女たちは、もっとゆっくり大人になってよかったはずだと。どんな子供も、もっとゆっくり大人になるべきなのだと。
そして、居場所のない子供に、安心して過ごす場所を作れないのは、子供のせいじゃない。大人であるわたしたちの問題なのだと。
知らないことはきっとまだまだあるのだと、読み終えて呆然としました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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