「あの『ごめん』って、何だろう?」
走ってくる路面電車の行き先表示を見て、夫が首をかしげた。
その言葉に、以前読んだ本のワンシーンが、一瞬にしてよみがえる。
「こっちは『ごめん』で、こっちは『いいの』」
横断歩道を渡りながら、日枝は左右を指し示した。
「あやまられて、許しちゃってるんですか」
「そう。まっことあやまるがやったら、許しちゃる、いうことです」
ふたりは声を合わせて笑った。
原田マハの『夏を喪くす』に収められた「ごめん」という短編小説の一節だ。
『土佐の高知のちんちん電車、東はごめん、西はいの』
高知市内を走る路面電車は、東の終点が「後免」で西の終点が「伊野」である。
主人公は、植物人間となった夫の通帳から、毎月給料日に高知銀行の「オリヨウ」当てに10,210円が振り込まれているのを見つけた。
それで高知へと出かけ、夫の高知赴任時代の同僚、日枝を訪ねたのだ。
そこには、女がいた。
「ここが、まさにあのシーンの場所なんだ」
そう思った瞬間、空気が変わった。周りの風景が突然輪郭をくっきりと際立たせたような感覚に、期せずして小説のなかにワープしたのかとさえ思い、まさかと首を振る。
小説のなかの世界が鏡越しに見えたような、ファンタジーの入口を垣間見てしまったかのような頼りない気持ちになる。
そして、思うのだ。
旅は、いい、と。
はりまや橋近くの商店街アーケード横に、ホテルをとりました。
アーケードのなかにも、龍馬を感じられます。
やなせたかしの出身地で、ミュージアムもあるだけあって、アンパンマンのキャラクター像は町のあちらこちらで見かけました。
高知城にも、歩いて行ける便利な場所でした。
空港までのバスを待つ間、はりまや橋のバス停で眺めていた路面電車。
色も雰囲気もまちまちで、でも町のなかに溶け込んでいるのがわかります。
2回だけでしたが、乗れてよかった。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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