「たっぷり時間あるね。ゆっくりビールでも飲もうか」と、夫。
「いいね。冬のイタリアに乾杯だね」と、わたし。
のんびりとした気分で、羽田空港のチェックインカウンターに荷物を預けようと並んだ。すると、受付の女性が申し訳なさそうに言う。
「申し訳ありません。ルフトハンザはストライキを行っておりまして、ご予約のフライトが欠航となりました」
半年前から予約していたイタリアの旅。寝耳に水とはこのことだ。
ツアーではなく個人でインターネット予約したチケットだったので、連絡が間に合わなかったらしい。怪訝な顔をするわたしたちに、彼女は言った。
「申し訳ありません。代わりの飛行機をご用意させていただきたいのですが、乗り継ぎが2回に増え、30分後のフライトになります。よろしいでしょうか」
今日のうちにミラノに着く方法は、他にはないと言う。
異存はないと伝えると、彼女はてきぱきと事務手続きをこなしていった。
30分後と言っても、出国審査やゲートまでの移動時間を考えると、走って飛び乗るようなものだ。急がなくてはならない。
「後のご説明は、ゲートまで歩きながらさせていただきます」
ちなみに、と夫が訊いた。
「わたしたちが着く前から、チケットの手配をしてくださっていたんですか?」
「はい。ご用意させていただいておりました」
手続きの間も一緒に歩きながらも、彼女は笑顔で淡々と仕事をしてくれた。
やるべきことを正確にこなしていく小気味良さを感じ、とてもさわやかな気持ちになった。
飛行機に乗ってから、夫が言った。
「どんなときでも、代案を考えられるかどうかが大切なんだよ」
「そうだね。ベストを尽くした代案を用意してくれたよね」
わたしは、NHK大河ドラマ『真田丸』で観たばかりの大阪城に籠城した真田幸村を思い出していた。次々策にダメだしされ、思うように運ばずとも、その時点その時点でベストと思われる代案を考え続けた姿が印象的だったのだ。
夫はさらに言った。
「それに彼女は、急いでくださいとか早くとか、一度も言わなかった」
「確かに。プロの仕事だなーと思った。かっこよかったね」
「それにしても、旅行前に空港で生ビール飲まずに出発するのって」
「ほんと、これまでになかったね」
そうして、彼女が用意してくれた代案のおかげで、ミュンヘンとチューリヒを経由して、予定通りの時間にミラノの地に降り立つことができた。
ミラノはとても寒かったが、イタリアビールのモレッティが美味しかった。
乗りこんですぐに飛行機が動き出したのは、初めてのことでした。
ひと眠りしてから窓の外を見ると、夕焼雲が眼下に広がっていました。
時代を感じさせるトラムが走るミラノの街に、ぶじ到着。翌朝の写真です。
近代的な新しいトラムも、走っています。
建物も、歴史を感じさせるものと新たに建てられたものが入り交じっています。
これは、サンタンブロージョ聖堂です。
ミラノ中央駅付近には、ビルが立ち並んでいました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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