「ハナミズキの枝に、モズの速贄(はやにえ)があるよ」
夫がいうので見にいくと、枝に刺さった蜥蜴(とかげ)の腹が銀色に輝いていた。モズには、餌となる虫や爬虫類を木の枝や有刺鉄線などに刺しておく習慣がある。それを「モズの速贄(はやにえ)」と呼ぶ。
「こんなに寒い季節に、蜥蜴がいるんだね」
というと、夫はモズが掘り出したのではないかと推測していた。
「鵙(もず)」は、秋の動物の季語。
傍題に「百舌鳥(もず)」「鵙の声」「鵙の贄(にえ)」「鵙の速贄」「鵙日和」などがある。
『俳句歳時記・秋』には、モズの声の鋭さに焦点を当てていた。
鋭い声は澄んだ大気によく響き、秋らしさを実感させる。
速贄を詠んだ句もあった。
鵙の贄かくも光りて忘らるる 熊谷静石
また「冬の鵙」は、冬の動物の季語。
冬鵙や風が磨ける石畳 大岳水一路
石畳を磨くほどの身を切るような冷たい風と鵙の鋭い鳴き声に、冬に染まった街が見えてきそうな句だ。
田舎で暮らしていると、こんなふうに弱肉強食の現場を目の当たりにすることがある。空気も凍るような季節にも、鳥や動物たちは里山で暮らしているのである。
速贄の写真は、グロテスク過ぎるので、ハナミズキの枝を。ピンクと白の花が咲く2本を並べて植えてあります。
向こうに見えるのは、南アルプス連峰。
2階のベランダから見た鳳凰三山。
地蔵岳のオベリスクは、肉眼でもくっきり見えます。
沙羅の木には、弾けた実のあとがたくさん残っています。この写真を撮っていたら。
ヒヨドリが、飛んできました。
「鵯(ひよどり)」も、秋の動物の季語。
鵯のこぼし去りぬる実のあかき 蕪村
水仙の蕾が、陽を浴びて伸びてきました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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