本棚の奥から、その本を取り出した途端、タイムスリップした。
2012年に読んだミステリだから、11年前だ。ただでさえ『ナミヤ雑貨店の奇跡』には、30年前の出来事が未来と交錯しながら描かれているのだから、そんな気分になるのも当然だ。
映画や芝居でも上演されているから、ご存じの方も多いだろう。
小説は、5編の連作短編集の形をとっている。
「回答は牛乳箱に」
若い男3人は、逃げていた。敦也、翔太、幸平。盗んだ車がエンストし、「ナミヤ雑貨店」と薄汚れた看板がある廃屋で、一夜を過ごすことにした。
そこで、30年ほど前の雑誌を見つけた。この店のことが載っていた。「ナミヤ雑貨店」は、どんな相談にものってくれる一役有名となった悩みごと相談スポットだった。夜中にシャッターの郵便受けに、悩みごとを描いた手紙を投函すると、翌朝には、裏口の牛乳箱に返事が入っているという。
そこへ、コトンと手紙が落ちてきた。閉まっていたシャッターの郵便受けに、誰かが手紙を投函したらしい。”月のウサギ”というペンネームの女性からだった。その内容は深刻な相談事で、どうやら30年前に生きていた人からの手紙だとわかり、愕然とする。
3人のこそ泥は、悩みごとに返事をかくことにする。
「夜更けにハーモニカを」
30年前のこと。売れないミュージシャンは、父親が病に倒れ、実家の魚屋を継ぐべきか悩み、「ナミヤ雑貨店」に手紙をかく。
「シビックで朝まで」
30年前のナミヤ雑貨店の店主とその息子のストーリー。なぜ「ナミヤ雑貨店」が悩みごと相談スポットになったか、詳しい経緯が明かされる。
死を目前にした店主は息子に、自分の三十三回忌の年に、これを世の中に公開してほしいと頼んだ。
『九月十三日の午前零時零分から夜明けまでの間、ナミヤ雑貨店の相談窓口が復活します。そこで、かつて雑貨店に相談し、回答を得た方々にお願いです。その回答は、貴方の人生にとってどうでしたか。役に立ったでしょうか。それとも役には立たなかったでしょうか』
「黙祷はビートルズで」
男は、中学の頃に「ナミヤ雑貨店」で悩みごと相談の手紙のやりとりをした。親の夜逃げについていくか否かを相談した。
そのときの礼をかこうとこの町へやってきた。ビートルズ専門の音楽バーを見つけ、そこで返事をかいた。かつて大好きだったビートルズを聴きながら。
「空の上から祈りを」
30年前からの手紙。19歳の女性”迷える子犬”は、雑用しかさせてもらえない事務の仕事に不満がつのり、副業のホステスを本業にして身を立てていこうか迷っているという。
こそ泥の3人は、言語道断だと返事をかくのだが。
個人的には「黙祷はビートルズで」が、いちばん胸に迫ってきた。
人は、すべての側面から、ひとつのことを見ることはできない。
自分では気づかないうちに誰かに支えられていることもある。それに気づいたとき、世界が反転することだってある。
「ナミヤ雑貨店」の店主は、どんな人のどんな悩みごとにも、真剣に向き合った。時空すら飛び越えてしまうほどに。そう考えると、タイムファンタジーは、人の心が起こすものなのかもしれない。ふっと現実にもあり得ることのような気がした。
保存状態がよく、驚きました。ずっと、誰も手に取らなかったんですね。
裏表紙もきれいだったので、公開します。読めば帯の意味がわかるのも楽しい。
こんばんは。
ナミヤ雑貨店の奇跡は映画で見ました。
印象に残るストーリーでした。
子どもの頃にどこにでもあった様々な雑貨も魅力的でした。
本も読んでみたいな~。東野さんってすごい作家だな~と思います。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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