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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『52ヘルツのクジラたち』

今年「本屋大賞」第一位に輝いた、町田そのこの長編小説。

クジラの声は、人間には聴こえない音域だとは知っていたけれど、ほかのクジラに聴こえない周波数でしか声を発せないクジラがいることは知らなかった。それが、世界に一頭だけしかいない52ヘルツで歌うクジラだという。仲間に届かない声で歌うクジラは、世界一孤独だといわれているそうだ。

 

26歳の三島貴瑚(きこ)は、海辺の田舎町にひとり暮らし始めた。亡き祖母が暮らしていた家の修繕を頼んだ業者、村中眞帆(まほろ)に、いきなり訊かれる。

風俗やってたの?

ただ静かに暮らしていこうと思っていたのに、それも簡単なことじゃないようだ。働いてないことや腹に傷があることもみな知れ渡っていた。

そんなある日、貴瑚はやせっぽちのしゃべることができない少年と出会った。

13歳の彼が虐待を受けていることに気づき、放っておけない気持ちになり落ち着かない日々を過ごす。

「第二の人生では、キナコは魂の番(つがい)と出会うよ。愛を注ぎ注がれるような、たったひとりの魂の番のようなひとときっと出会える。キナコは、しあわせになれる」

両親からひどい虐待に合っていた貴瑚にそう言ったのは、アンさんだった。

読み進めるうち、貴瑚の過去が少しずつ炙り出されていく。

アンさんとの出会いや、親友、美晴のこと。恋した人のこと。

 

それと平行して、〈52〉の心に歩み寄っていく過程が描かれてゆく。〈52〉とは自分の名前を〈ムシ〉とかいた少年に貴瑚がつけた名前だ。

貴瑚が眠れない夜に聴く、人が聴こえる周波数にしたクジラたちの歌声を〈52〉も気に入っていた。

母親に〈ムシ〉と呼ばれ虐待されてきた少年の言葉にならない声に、貴瑚は耳を傾け続けていくのだが。

本当はたくさんの仲間がいるのに、何も届かない。何も届けられない。それはどれだけ、孤独だろう。

「今もどこかの海で、届かない声を待ちながら自分の声を届けようと歌っているんだろうなあ」

誰にも声が届かない孤独のなかをさまよう子供たちがいる。
小説のなかから、そんな叫びが聞こえてきた。

深い夜のような色合いのブルーの表紙、美しいですね。帯裏には、「ケンタの祈り」というスピンオフが細かい字で綴られていました。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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