最近、末娘に荷物を送るとき、本から引用した言葉を添えることにしている。
彼女は、日本語の美しさが大好きで、海外の言い伝えなどのおもしろさも興味深く感じている。毎日送り迎えしていた頃には、わたしの方がいろいろと教わった。
贈る言葉は、『誰も知らない世界のことわざ』や『なくなりそうな世界の言葉』、そして『パリのすてきなおじさん』などから選ぶことが多い。
彼女の25歳の誕生日も、もうすぐだ。
『パリのすてきなおじさん』のページを、久しぶりにめくった。
「機械を使えば二時間でできる仕事を、手で百時間かけてやりたい。」
と言うのは、修復を主に扱う彫金師のフレデリックさん。
手を抜かず徹底的に修復したい職人に対して、骨とう品やは「そんなに時間をかけなくてもいいよ。そのくらいでもういいから、次の仕事にかかってよ」と催促するのだとか。そんなことでは職人のレベルは下がるばかりだ。
フレデリックさんは、自分が満足できる仕事を大切にしている。だから満足するまで時間をかけて仕事するのだそうだ。
「料理人はテクニックを見せてはいけない。テクニックは食べられない。」
と言うのは、ミシュランの星を持つ人気店のシェフ、ジャッキーさん。
店を転々と渡り歩いた経歴を持つ彼は言う。
「ぼくはたくさん変わりたかったんだ。同じ料理人の下に長くいると、その人のコピーになってしまう。だから、どこまでも料理の旅を続けたかった」
そして今の店にたどり着き、ある料理研究家の言葉が胸に響いたという。
食材をどう活かすかだけを考えなさい。テクニックは食べられない。
開店からわずか4年。念願のミシュランの星をとるに至ったそうだ。
「人生を学んでいるあいだに手遅れになる。大事なことを後回しにするな。」
と言うのは、モンマルトルで絵を直販する老画家、アンリさん。
絵を買ってくれた人との交流を大切にし、最近はラ・ヴィ〈人生〉をテーマに描き続けているという。
さて。娘にどんな言葉を贈ろうか。
久しぶりに開いた『パリのすてきなおじさん』です。
下町の彫金師、フレデリック・モレルさん。
ミシュラン星付きレストランのシェフ、ジャッキー・リボーさん。
モンマルトルの老画家、アンリ・ランディエさん。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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