恵比寿の東京都写真美術館に、アラーキーの写真展を観に行った。
『センチメンタルな旅』と題されるのは、「陽子によって写真家になった」と自ら語るアラーキーの陽子との新婚旅行での写真を、時系列順に並べたものだ。
その他に『東京は、秋』『陽子のメモワール』や、陽子が42歳で亡くなるまでの数カ月から闘病生活、死、そして葬儀までを撮った『冬の旅』、その後、空ばかり撮っていたという『空景』、陽子と飼っていた愛猫チロを撮った『愛しのチロ』などが展示されていた。
「私写真」という言葉を初めて知った。「私小説」と同じく「撮影者の身のまわりの事象やプライヴェートな出来事などを題材とした」写真のことだそうだ。
正直、愛する人のヌードを撮って、それを発表するということも、その写真のよさも、わたしにはわからなかった。有名な、陽子がボートの上で眠っている写真や、ベランダで洗濯物を干している「愛のバルコニー」と題した写真には、心魅かれた。美しいと思った。しかし、そう感じた写真はほんの数枚だった。
人間の、人の世の汚れた部分、目を背けたくなるようなシーンばかりを切りとっているかのようにさえ思えた。
だが観ていくうちに、目が離せなくなっていく。
こんなにも人を愛することができるのかと思うほどに、陽子を愛する気持ちが写真のなかにあふれでているのを目の当たりにする。それは、圧倒的な愛だった。
観ているうちに、人を愛するということは、狂う、ということなのかも知れないとも感じていた。そして狂うほどに誰かを愛することができるのなら、そこには稀にしか目にすることのできない幸せ(天国とか地獄とか、そういう類のものだ)があるのかも知れない、とも。モノクロの写真たちが、まるで木漏れ日が揺れるかのように光と影を交互にちらつかせながら、そう語っていた。
きのうまででした。行けてよかった。
JR恵比寿駅東口から、徒歩7分のところにあるお洒落な建物です。
Tokyo Photographic Art Museumの略が、TOPなのかな?
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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