きのう公開された映画『食べる女』だが、映画ではなく小説を、そのきのう読み終えた。読み終えて思った。「ああ、映画観たい!」
映画は、24話収められた短編小説に沿うストーリーではなさそうだが、美味しい料理が50以上も登場するらしい。豪華キャストに劣らず、登場する料理も豪華というより味わい深いものばかりだとは小説を読めばわかる。なにしろ「卵かけご飯」を立ち食いする『台所の暗がりで』からスタートするのだから。ひと言で言えば、美味しいものと女たちの恋愛ストーリーだ。『食べる男』も3つ入っているけれど。
読み終えて「ああ、映画観たい!」と思ったひとつには、古い映画のワンシーンを思い出したことも関係してくる。『ニューシネマ・パラダイス』のラスト、当時上映禁止でカットされていたキスシーンを集めたフィルムを主人公が観るシーンだ。様々な映画のそれぞれのシチュエーションでのキスシーン。
当然だが、いろいろな恋があり愛があり、出会いがあり別れがある。それを凝縮したようなあのシーン。『ニューシネマ・パラダイス』のなかでは切ないシーンではあるがそれとは別に画面を流れゆく恋人たちの姿に胸を揺さぶられた。
この小説の24話ひとつひとつは、掌編と言ってもいい小さな物語ばかり。だが、垣間見えるシーンは、フィルムのなかのキスシーンを思い出してしまうほど濃厚だ。『ニューシネマ・パラダイス』に習い、いくつか切り取ってみよう。
『セックスとラーメンの方向性』〈ラーメン〉より
名前も経歴も知らない原石のままの「男」と「女」として見つけ合い、一緒に血液中のアルコール濃度を高めながら、店を出る。たいていは麻子の部屋へいく。なにしろ徒歩五、六分以内なのだから。そして心地よい、かつ安全なセックスを楽しむ。ジュエリーのデザイン同様、プリミティブでシャープなセックスが麻子は好きだ。
『豆腐のごとく』〈豆腐〉より
「パパ、豆腐って、本当においしいの? どういう風においしいの?」
「チビにはまだ無理だな。豆腐の味は子供にはわからない。お前が大きくなって、いつか誰かに惚れて、とことん惚れぬいて、苦しんで悶えて、そんな恋をくぐりぬけたら、お前にもきっと豆腐の味がわかるようになってるさ」
『なんて素敵な世界』〈生牡蠣〉より
弘の指はきれいだ。男の指がこんなにセクシーだなんて、思ったこともなかった。そのきれいでセクシーな指で愛撫を受けながら弘が料理を作る姿を想像して、すると自分がまな板の上の魚や肉になったみたいで、それはとてもエロティックな体験だった。
『たわわの果実』〈チーズ〉より
乳房というのはピンと張った若々しいモノだけが美しいわけじゃない。ブラジャーを外し、その重みを含んだ乳房を両の手で受けとめる時、朱美は自分が今、食べごろの「おいしい季節」を生きていることを実感する。賢治もまたこのたわわの乳房を手に受けて、ゆっくりと口づけするのが好きだ。
食べたい!と思ったのは『多忙少女』のユーラがママと作るメンチカツ。油っこさが苦手で十数年も食べていないものだが、これがやたらと美味しそう。
「美味しいものさえ食べていれば、人生なんとかなる!」と思える1冊。
出演、小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香。猫のタマちゃんも登場するよ。文庫本の解説は、壇蜜。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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