『それでも旅に出るカフェ』に続き、近藤史恵を図書館で借りた。”家事”全般を学ぶ学校の話だ。
主人公は、43歳、新聞記者の仲上幸彦。去年、妻の鈴菜は5歳の娘の理央を連れ、出て行った。離婚し、毎月養育費を振り込んでいる。独りの生活は荒れていた。
妹に勧められ、長期休暇に山之上家事学校の門をくぐったのは、理央に嫌われない父親でいたい、という理由から。
年配の女性、紫ヘアの花村校長はいう。
「家事とは、やらなければ生活の質が下がったり、健康状態や社会生活に少しずつ問題が出たりするのに、賃金が発生しない仕事、すべてのことを言います。多くが自分自身や、家族が快適で健康に生きるための手助けをすることで、しかし、賃金の発生する仕事と比べて、軽視されやすい傾向があります」
漠然と、家事は面倒だとしか思っていなかった幸彦には、新鮮なことばかりだった。
買い物ひとつでも、生徒何人分の夕食の食材だからと、リストにないものも代替え品を自然と考えていたが、これまで妻に買い物を頼まれたとき、売っていなければ何も考えず買わずに帰っていた。
たぶん、「言われたことをやればいいだけで、後は鈴菜が何とかする」と思っていたのだ。そのくせ、ちゃんと家事を分担しているつもりでいた。
ある日、妻と妻の両親がコロナウィルスに感染し、幸彦は6歳の理央を預かることになる。挽回のチャンスだと思ったが、上手くいかないことばかりだった。
ゴミの始末をするのが嫌で帰ってしまった18歳の猿渡。認知症を患っている妻との暮しにと受講している白髪の鷹栖。幸彦と同世代で、面倒見のいい白木。
家事学校には、様々な生徒がいた。
家事全般を手際よくこなす白木も、妻とのこじれた関係に悩んでいた。
「ねえ、仲上さん、考えたことありませんか。俺のこと好きなら、そのくらいやってくれたっていいだろうって」
調理実習、皿洗い、風呂掃除、洗濯、繕い物、希望すれば、子供の髪を結い上げるレッスンもあった。
ある日の授業は「聞くレッスン」。
ルールはひとつ、遮らず、茶化したりもせずに、ただ、話を聞く。簡単なようで、意外に難しいです。
戻ってきた若い猿渡は、離婚した両親のこと、保護者となってくれた叔母のことを話し始める。
幸彦は、ひとつひとつの出来事を、自分ごとに置き換えて考えていた。自分のとった過去の行動を分析し後悔し、まえへ進む足掛かりにしていた。
過度に素直な主人公ではあったが、彼は小説のなかの道先案内人。家事を中心に据えた、人と人とのつながりを描いた物語を楽しめた。

長編ですが、十章の章立てが連作短編のように組み立てられていて、するすると読み進められました。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。