旅から戻ると、いくつかの郵便物が届いていた。
そのなかに、2025年度版『夏井いつきの365日季語手帖』が、あった。
入選通知が添えてあり、本に俳句が掲載されているという。
1月1日から順番に見ていくと、6月17日の季語「黴(かび)の花」のところに、載っていた。
黴の花SNSの暗き水
パリオリンピックの時期、SNSで心ないかき込みをされる選手たちに胸を痛めていた。顔も名前も出さずに、確かでもないことをさもほんとうのことのようにかきこむ存在の心根の暗さ。よく考えもせず、それに乗っかり拡散していく多数の存在の恐ろしさ。胸の奥にくすぶり消えないそんなやるせなさを詠んだ句だった。
解説には、こうかいていただいた。
暗き水とは独特な比喩だ。底に何があるかもわからない暗い水になぜ人は浸かろうとするのだろう。現実戻れば黴の花が青白く胞子を広げている。どちらも取り除けないでいる。
句会の友人が、「俳句は、日記のように、後々詠んだときのことを思い出せる」と言っていた。
酷暑の夏、パリオリンピックの熱、それとは真逆の心が冷え切るようなSNSの拡散、当事者ではないにもかかわらず受けた傷。じめじめとしたところにはびこる黴の花をイメージしたことなどを、半年が経ち、年が変わった今、ありありと思い出している。

2025年度版『夏井いつきの365日季語手帖』。表紙絵は、今年は緑が基調になっています。黒部峡谷のトロッコ列車を連想しました。

小林一茶のお隣。うれしい。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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