週末、夫と久しぶりに町内の温泉に行った。
『ハイジの村』クララ館である。
「じゃ、30分後、6時にね」
そう言って男湯と女湯に分かれ、それぞれ温泉につかった。
湯につかりながら時計を見る。もともと烏の行水であるわたしは、ていねいに髪も身体も洗ってもほどほどにゆったりする時間はある。
ところが、風呂から上がり脱衣所に出ると、風呂場の時計より5分進んでいる。
「わ、遅れちゃうかも」
そう思った途端、『神田川』のフレーズが脳裏をよぎる。
洗い髪が芯まで冷えて 小さな石鹸カタカタ鳴った
小さな石鹸をカタカタ鳴らすところがさすがだなと思いつつ、しかし待つのは女、そこに美しさを見いだす時代だったんだよなあと複雑な気持ちにもなる。
そして考える。今でも風呂上がりの待ち合わせは、ごく普通のことだろう。時計の狂いは、仲違いのもとにもなるのでは?
しかしみな、スマホやケータイで時間を確認している。受付に言うほどのことでもないようだ。それに待ち合いにはソファが並んでいるし、暖房も効いている。小さな石鹸はカタカタ鳴らない。LINEの着信音がたまに聞こえるくらいだ。風呂を上がってからLINEで連絡を取り合うことだってできる。洗い髪は芯まで冷えなくなったのだ。
だが時計を疑うことをしなくなった現代、遅刻する人が増えたと、小説『マスカレード・ナイト』で読んだ。
人は、小さな隙間を見つけて、そこに入りこむのが得意なようだ。時計が正確になった分、ぎりぎりまで自分のために時間を使うようになってしまった。
それでも、待ち合わせ時の気持ちの小さなすれ違いは、たぶんなくなることはないだろう。
かくいうわたしも、夫を少し待たせてしまった。間に合ったのに、待ち合わせ場所に彼がいなかったからと、隣りで雑貨を見ていたのだ。
風呂上がりの待ち合わせ、あなたは待ちますか? それとも、いつも待ってもらっていますか?
『スタジオKURI』の手づくり石鹸です。KURIさんは『コタツマルシェ』でライブをしていたアーティスト。石鹸やハーブティも作っている多彩な方々です。ブルーベリーの香りの石鹸を選びました。
『仁田平マルシェ』で売っていた石鹸です。オートミール&ココアや、どくだみはちみつなどもありました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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