東京の実家に年始の挨拶に行った際、『神田明神』を詣でた。
今月末にここで会社のイベントがあるので、お参りしたかったのだ。
混み合う人に戸惑いながらも(東京は人がいっぱいいるなあ)、ぶじお参りすることができた。ホッとして振り返り、二ノ鳥居をカメラに収めたときだった。
「スミマセン」
声をかけられた。
外国人の男性だった。二十歳くらいだろうか。男の子と言ってもいい。
「ここに、行きたいんですけど」
けっこう達者な日本語だ。彼が広げた地図をのぞきこむ。
「ここが神田明神で、行きたいのは、ここなのね」
方向音痴オリンピック金メダリスト有力候補のわたしである。『神田明神』を訪れたのも初めてで、土地勘もない。訊く人を間違えている。そうは思ったができるだけのことはしたい。
「こっち、行ってみようか」
「いいんですか?」
と、腕時計を指さす。
「だいじょうぶ」
OKともノープロブレムとも言えるが、あえてすべて日本語対応にした。というか、口から日本語しか出てこない。ひと言でも英語をしゃべると、英語で話しかけられ兼ねない。たぶんその方がややこしくなる。そんな防衛本能はしっかり働いていた。
「どこの国の人?」
「台湾人です」
そんなふうに話しながら歩き出すと、あっけなく目的地は見つかった。仕事を斡旋してくれるところらしい。
「ありがとうございました」
ぎこちなく頭を下げる彼は、ちょっと心細そうに見え、
「がんばって」
あまり使わない言葉が、口を突いて出た。
それと一緒に、手話の「がんばる」という仕草も。言葉が通じないかも知れないと思うと、つい身体が動いてしまう。手話も亀の歩みでしか上達しないのに、伝えたいときに身体が動くマイジェスチャーの一部になっている。
すると彼は同じ手話を返し、うなずいた。言葉はない。
もちろんそれは手話ではない。けれどしっかり「がんばります」と言っていた。
日本語の「がんばる」に当たる言葉がない国もあると聞いたことがある。台湾がどうなのかはわからないが、通じたのだからいい。
『神田明神』は、あらゆるご縁を結んでくれるご利益があるという。
どうか彼が日本でいい仕事に、いいご縁に巡りあえますように。
JR御茶ノ水駅から、聖橋を渡ってすぐです。
露店がたくさん並び、すごい人出でした。隋神門。
御神殿です。並んで5人くらい待って、お参りしました。
だいこく様尊像にも、お参りしました。開運招福とありますね。
獅子山。夫婦の獅子だそうです。
空には飛行機雲の跡が、流れて消えていきました。
手話の「がんばる」。しっかり握った拳に力を入れて小さく振り降ろします。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。