カタチに囚われずその光を見出し、感情の宇宙を限りなく広げる、最強の恋愛小説集。
そう謳われる三浦しをんが2007年に出版した短編集。読んだのかも忘れるくらいずっと本棚にあった文庫をふと手にとった。
同性へ秘かに思いを寄せる恋や、姉弟の恋、死んだ男に思いを寄せ続ける女、夫の不貞を許し自らもまたほかの男に身体を許す妻、などなど。風変わりな恋の物語が並んでいる。
「裏切らないこと」
生まれたばかりの息子が可愛くてたまらない〈俺〉は、風呂に入れるのが楽しみで勇んで家に帰るが、とんでもない現場を目撃してしまう。
赤ん坊のペニスをしゃぶるような妻を、はたしておればこれからも変わらず愛し続けられるだろうか。
〈俺〉は会社の年上の女性や義母にそれとなく相談するうち、子供の頃によく遊びに行っていた老夫婦のことを思い出す。
「私たちがしたこと」
親友の美紀子は、結婚式を目前にどうしても教えてくれという。
「あのとき、あんたはどこでなにをしてたの?」
川原で穴を掘っていた。あの男を埋めるため。
いつまでたっても恋愛への扉を開けようとしない〈私〉のために、美紀子は高校時代の恋人を式に呼ぶのだった。
「優雅な生活」
部屋に転がり込んできたのに、家事を何ひとつしない俊介に、さよりは怒り心頭。ふたり一緒にロハス生活をしようと宣言する。
「さよりが本気だと言うのなら、俺が本物のロハスを見せてやる!」
「本物のロハスってなによ」
「まず、ゴム製品は使わない」
俊介は股間の息子をしごきながらのしかかってきた。さよりは必死に腕を振りまわす。
「なんでそうなるの!」
「冬の一等星」
8歳のとき、車の後部座席に乗ったまま見知らぬ男、文蔵に連れ去られた〈私〉は、大人になった今も、相手に伝わらない歯がゆさを感じるたびに、思う。
そんなとき私は、文蔵と見た夜空を思い起こす。全天の星が掌に収まったかのように、すべてが伝わりあった瞬間を。あのときの感覚が残っているかぎり、信じようと思える。伝わることはたしかにある、と。
タイトルの『きみはポラリス』という短編はない。
ポラリス。つまりは北極星。そこに輝いているだけで胸ときめかせる存在。
ひとは生まれながらにして恋を恋だと知っている。とても不思議だ。
11編が収められていました。1話目の「永遠に完成しない二通の手紙」とラスト「永遠につづく手紙の最初の一文」は登場人物が同じで、個人的にはいちばん好きな物語でした。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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