伊坂幸太郎の新刊『ホワイトラビット』(新潮社)の表紙には、タイトルと著者名意外に「a night」とある。ある夜のお話ってことかな?
ふーん、ふむふむと読み始めた。
〈主な登場人物〉
【兎田孝則(うさぎだたかのり)】誘拐を生業とする会社勤務。
今や余裕たっぷりで「約束の一つ目、人質中のおしゃべりは×」「二つ目、人質中の携帯電話の使用は×」「三つ目、人質中に周りの人に迷惑をかける行為は×」と映画上映前の注意事項のように、というよりも実際にそのパロディのつもりで、愉し気に述べられるようになっていた。
【綿子(わたこ)】兎田の妻。
【黒澤】数々の伊坂作品に登場する優秀な泥棒。
「人間というのは集団で生きているからな」黒澤が言う。
「ルールを守ることに関しては敏感なんだ。ルールは自分たちから自由を奪う。ただ、そのルールによって秩序が、集団が守られている。ルールを破りたいが、破らないように、と昔から教え込まれている」
「誰に教え込まれたんすか」
「渡り鳥に、渡る時季を教えたやつだろうな」
【中村】『ポテチ』などに登場した空き巣コンビの親分。
【今村】『ポテチ』では主役だった空き巣コンビの子分。
黒澤はダイヤルを回転させていく。今村はいつの間にか間近で、まばたきすら惜しむ様子で目を見開き、顔を近づける。
「鼻息がうるさい」黒澤がぼそっと言う。
「金庫って鼻息するんですか」
【佐藤母】【佐藤息子】立てこもり事件の被害者。
【夏之目課長】宮城県警特殊班SITの指揮を執る。
「人の心は、海や空よりも壮大なんだよ。その壮大な頭の中が経験する、一生って、とてつもなく大きいと思わない?」
「そういうものか」
夏之目は賛同する気持ちにはなれなかったが、満足げに話す娘を見ているのはやはり幸福だった。
【稲葉】誘拐を主に仕事とする会社社長。大ボス。
〈ストーリー〉
誘拐会社で誘拐担当だった兎田は、ある日会社に愛する妻を誘拐されてしまう。
「逃げたオリオオリオを生きたまま連れてこい。さもなくば」
自社だけに命令に背けばどうなるかはよくわかっている。会社はオリオオリオの持つ情報が目当てだ。愛する綿子ちゃんを救うために、何とか探し出さなくては。それが、オリオオリオを追ううちに佐藤母子を人質に立てこもることになってしまい……。そして、隣りの家に空き巣に入った黒澤、中村、今村は、立てこもり事件に巻き込まれていく。人の感情をうまく理解できず、怒り、恐怖、喜びなどを感じることのない黒澤だが「困る」にはよく遭遇するらしい。困った黒澤は、いったいどんな行動をとるのか。乞うご期待!
「a night」ある立てこもり事件の夜に、オリオン座が輝いて、って感じかな。
流れる空気は、ユーモアテイスト&愛&黒澤だった。
帯の裏側には「息子への、妻への、娘への、オリオン座への(?)愛が交錯」とあります。ブックカバーの内側には「白兎」「レ・ミゼラブル」「夜」「オリオン座」の著者目線での解説つきでした。読めば、オリオン座関連のうんちくに詳しくなること請け合いの小説です。
『レ・ミゼラブル』、映画は観たけど本は読んでません。
(という人が多いと文中にもかかれています。長すぎて寄り道が多いからと)
本を読んだという夏之目の娘のセリフが好きでした。
「海よりも壮大な光景がある。それは空だ。空よりも壮大な光景がある。それは」
「宇宙か?」
「それは人の魂の内部」
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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