自慢じゃないが、1㎏痩せた。
5年ほど前に3kg増え、様々ダイエット的なものに取り組んだのだが、
「あなたの体重は、そのまま据え置きということに決定しました」
と、どこかで誰かがハンコでも押したのかと疑うくらい、体重は落ちなかった。
それが、ここ3カ月1㎏落ちたままなのだ。うれしい。自慢じゃないが自慢したい。それって、もとの体重よりまだ2kgオーバーだよね、と冷たくツッコミを入れられても、余裕で笑顔を振りまけるほどうれしい。50代半ばとは言え、わたしも女性なのである。
だからね、若い女の子たちが摂食障害になっちゃう気持ち、切ないほどにわかるの。おばさんになったってたったの1㎏減ったくらいで、この騒ぎなんだから。
荻原浩の短編集『冷蔵庫を抱きしめて』(新潮文庫)には、どこか不完全な人を描くストーリーが8つ収められている。
表題作は、32歳、同い年の直子と越朗。ラブラブだった新婚旅行から帰った途端、食の好みがことごとく合わないことが発覚した。直子は、中学生のときに患った摂食障害が再発してしまう。
ラーメンはみそVSとんこつ。
ドレッシングは和風ごまVSサウザンアイランド。
許せないのは、何にでもケチャップをかけることだ。コロッケやカキフライならまだわかるけれど、信じられないことに、天ぷらや冷や奴にもかける。イタリアントマトをことこと煮こんでつくったペスカトーレにケチャップを足された時には、トングで頭をひっぱたいてやろうかと思った。そのくせ、オムレツにケチャップででかいハートマークを描いて出したら「ああ、オムレツにはデミグラスがいいんだけど」なんでそうなる? わけがわからない。
『ヒット・アンド・アウェイ』
27歳バツイチ、2歳の娘、星羅を育てている幸乃は、恋人、琢真のDVを受ける毎日。だが、留守中に星羅にまで暴力を振るっていたことを知った幸乃は、ボクシングジムに通い始める。琢真より強くなり、ヒット・アンド・アウェイ。打ちのめして離れようと決意したのだ。
『アナザーフェイス』
20代サラリーマン浅川の楽しみは、ネットだ。SNSやツイッター。ブログではそのためにラーメンを食べに行くほどのハマりよう。ところがある日、自分にそっくりな奴があちこちで目撃されるようになって。
『顔も見たくないのに』
自己中な別れた彼氏が、突如お笑い芸人に。顔も見たくないのに、テレビに広告にネットにまで。ああ、どうして?
『マスク』
風邪をひいてマスクをつけてみたら、あれ? 誰も俺だって気づかない。電車のなかでじっと見られることもない。平凡なサラリーマンが、マスク中毒に。
『カメレオンの地色』
彼が、部屋に来る! 梨代の部屋には4年分のゴミが山積みになっていた。片づけられない女は、部屋を片付けるうち、ずっといろんな男の色に染まってきた自分をかえりみる。果たして、自分の色を見つけられるのか?
『それは言わない約束でしょう』
おしゃべり家族のなかで育った礼一は、転勤先でひとり暮らしを始めた。百貨店の接客なのに、心の声が周囲に聞こえるようになってしまい……。
『エンドロールは最後まで』
結婚しない女になる。37歳の千帆は決めた。その途端、ミニシアター好きな映画の趣味が合う彼氏ができる。緊急医療の医者だという彼は、アフリカに医療支援に行きたいという。その資金に困っているようだが。
頭も体も完璧な人間なんてどこにもいない。
『アナザーフェイス』に出てきた言葉だ。まったくそうだよなあと思う。
特に心は、小さな小石が当たったくらいで、すぐに欠けていく。心が欠けてない人なんか、それこそどこにもいないのだ。ヒット・アンド・アウェイ。例えヒットしなくても向かっていこう。そんなふうに思えて、深呼吸をした。
表題作のイメージで描かれた二人の絵でしょうか。赤と緑が効いていますね。
表紙絵は、中島陽子。解説は、藤田香織です。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。