正月に読もうと思っていた、辻村深月の心理ミステリ『嘘つきジェンガ』には、詐欺を描いた中編が3話、収められている。
ミステリを愉しむ気満々だったのだが、1話目「2020年のロマンス詐欺」を読み始め、現在進行形で現実に起こっている一連の強盗殺人事件と重なるところがあり、しばらく読めなくなってしまった。
小説は詐欺がテーマなので、強盗や殺人は起こらない。
しかし、若者がSNSなどで騙されて”手駒”にされていくところなど、とてもリアルだ。
コロナ禍で、実家からの仕送りもバイトも失った大学生になったばかりの耀太。
学費と生活費を稼ぐため、高校時代の同級生からのメールをすがるような気持ちで信じた。メールするだけで金になる、という言葉だけを。
犯罪に加担する気などは欠片もなかったはずなのに、乱暴な言葉で脅されるようになり、いつしか誰かを騙して金を入金させなくてはと思い始めてしまう。
「相手に心を開かせたいなら、自分の思いを、自分の言葉でひとつひとつ伝わるように書かなきゃ。だからこそ、向こうだって初めて心を開くんだから。相手のこと、褒めて褒めて、話を聞いてあげて、その上で、今、自分が困っていることを伝えるんだよ。そうじゃなきゃ、向こうも心を許してくれないよ。せっかくカモリスト渡してるのに」
「五年目の受験詐欺」では、子供への思いから受験詐欺に遭ってしまった母親が描かれているが、夫婦間のモラルハラスメントが根底にあったことが炙り出されていく。
人気漫画原作作家が非公開でサロン(オフ会)を開く「あの人のサロン詐欺」では、親の偏った考え方に呆れながらも、パラサイトせざるを得ない36歳の女性の葛藤がリアルだ。
初めて知った言葉に「子供部屋おばさん」「子供部屋おじさん」があった。
実家の子供部屋にいつまでも住み続ける未婚者を、ネットスラングでそう呼ぶそうだ。
自分はいつまでこうなんだろう――と焦り、両親からも「そんなことでいいのか」と焦りをぶつけられてやる気をMAXに殺がれていた時期だ。
紡もそんな時期に、この言葉を知る。
私、それじゃん――。
苦しい。誰か助けて。
騙す方からも、騙される方からも、そんな叫びが聞こえてくるような小説集だった。
帯には、こうありました。
騙す側、騙される側、それぞれの心理を巧みに描く小説集
小さな嘘をついてしまうことは、たぶんわたしにも、誰にでもあることだと思うけれど、もう戻れない”一線”ってどこにあるのかな。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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