再読したのは、30年以上前に読んだ宮部みゆきのミステリ。
覚えていたのは、収録された5話のうち1話「サボテンの花」と、あとは、ただただおもしろかったということ。
ほか4話は、表題作「我らが隣人の犯罪」「この子誰の子」「祝・殺人」「気分は自殺志願(スーサイド)」。タイトルだけでも興味が沸く。
そのうえ、解説が北村薫。
ふたたび開くには、条件が揃いすぎている。
「我らが隣人の犯罪」
主人公は、中学1年の三田村誠。
彼は、彼の家族である両親と妹は、非常に困っていた。隣人の女が飼っている犬、スピッツのミリーは昼夜問わず吠えまくっている。その騒音は尋常ではない。苦情を言っても、ペットを飼うのは自由とはねつけられる。その繰り返しで、疲弊はつのるばかり。
なぜ吠えるのかといえば、家に閉じ込められ散歩も一切しない状態にストレスをため込んでいるのだろうとは推測できるが、お隣は聞く耳を持たない。
誠は、家によく遊びに来る大学生の叔父と共に、ミリー誘拐を企てる。
「この子誰の子」
その晩、僕の家を二組のお客が訪れた。最初のお客は雷雨だった。
なんともかっこいい冒頭だ。
もう一組のお客は、人、それも赤ん坊を抱いた女性だったわけだが。
両親が遠方の結婚式で留守の夜遅く、彼女はドアを叩いた。暴風雨のなか、迷った挙げ句家に入れてしまったサトシ(14歳)に、彼女は言い放つ。
「あのね、あたしはサトシ君のお父さんの恋人よ。で、この子はあたしと彼の子供」
「サボテンの花」
ストーリーは覚えていたにもかかわらず、ページを開いた途端、引き込まれ、一気読みしてしまった。
6年1組の卒業研究のテーマ「サボテンの超能力を研究する」が問題視され、保守的な教師たちがやめさせようと圧力をかけ続けている。
その子供たちを信頼し、見守り、手を尽くしているのが、ナマハゲとあだ名される来春退職予定の教頭だ。
個性豊かでユーモアのある、けれど心のまっすぐな26人の子供たち。
教頭は、彼らがやりたいというのなら、それが何であれ、やらせてあげたいと思っていた。
「僕たちはサボテンだ」
「はあ?」
「植物園見学事件の騒ぎのとき、稲川信一が私に言ったんだよ。僕たちみんなサボテンですって」
「あの子たち、そんなにトゲトゲしていますか?」
「いや、そうじゃない」教頭は考え込みながら顎をなでた。そして思わず微笑んだ。
「誰にも剪定されないからだそうだ」
教頭は、向かい風――吹き飛ばされそうな強風、を受け、つぶやいた。
「私だって、サボテンだ」と、厳かに宣言した。
だいぶ棘は抜けている。水分も減って、活力も失せてきた。だがそれでもサボテンだ。剪定されることはない。
「もっとも、だからとうとう床の間に飾られることがなかったんだろうがな」と、付け加えて、寂しく笑った。
「我らが隣人の犯罪」は、ミステリとして非常に優れているし、「この子誰の子」は、ミステリとしてのおもしろさに加え、主人公サトルの人間性に呆然とする。
あと2つの短編も心愉しいミステリだけれど、「サボテンの花」は、特別だ。
すごい。圧倒される。
ぜひ多くの人に読んでいただきたい小説である。
今見ても、かっこいいデザイン。単行本は1990年、文庫は1993年に出版されています。
「Our neighbor's crimes」海外でも出版されているのかな?
内容も、固有名詞以外は、海外ミステリだといわれても信じてしまうかもと思うくらい洒落ていました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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