短編の名手、若竹七海の長編に挑戦してみた。
1997年に刊行された『海神(ネプチューン)の晩餐』だ。
プロローグは、こう始まる。
不運は孤独ではない。いつも群れをなして襲ってくる。
1912年。タイタニック号は、沈没した。
物語はそれをベースにして、20年後、1932年へ飛ぶ。
タイタニックに乗っていたミステリー作家が残した”短編小説”が、見つかったのである。
主人公は、本山高一郎、愛称もとさん。歳は22~3歳。推理小説に心酔する若者は、厳格で裕福な父に世界を見てこいと氷川丸の一等に乗り、ひとりバンクーバーへ向かう。
その乗船前に、問題の”短編小説”を学生時代の友人から買う羽目になってしまった。
乗船後、その原稿に謎の乱数表が現れたと思ったら、何者かに盗まれてしまう。
偶然乗り合わせた、もとさんの幼馴染みのマキノ。
日系カナダ人で、ミステリー小説大好きなサラ18歳。その弟で悪戯好きな10歳のミチオ。
夫婦仲が危ぶまれる、ボストン大学教授ジョージと、妻エディス。
ハワイに家族を持つ貫禄のある中国人男性、チャン。
立教大学教授、ポール・ラッシュ。
謎解きの答えとなるラストを盗まれた小説を介し、10日間の船旅を共にした彼らは、親しくなっていくのだが、ああ、なぜか、もとさんの部屋に金髪女性の死体が。
もとさんとマキノ、サラの推理は、乗船した人々の目撃情報や、残された小説、ミチオの日記にかかれた10歳ならではの視点にヒントを求めつつ、進められていく。
チャンが、もとさんに話すシーンが胸に深く落ちた。推理小説をなぜ好きなのか、チャンは語る。
あれを読むとほっとします。謎がすべて解かれる。すべてに正しい答えが出る。現実はそんなわけにいかない。わりきれないことたくさんあります。だから本のなかだけでも正解を見つける。嬉しい。素晴らしい。
しばらく探偵ものの推理小説に身を寄せていこうと思ってしまうほどに、共感した一節だった。
葉村晶シリーズとは雰囲気が違うように思いましたが、同じく杉田比呂美のイラストでした。もとさんとサラですね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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